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第4話
それから土曜日の夜まで時間は進む。
二人の生活に自分が入り込んだ形で、ナナトは時折どこかへ出かける以外はべったりとくっついてくる。
至近距離で好き、とか愛してる、とか折に触れて口にするので、段々と絆されてきてしまっている。
大きいのに人懐っこい犬みたいだ。
「ねーケイコさん」
蜂蜜を混ぜたような甘い声で名前を呼ばれる。
「俺の事、好きになってきた? 」
「……えっ!?あ、えっと……」
「明日で終わりじゃん。そろそろ聞かせてよ」
ナナトは後ろから肩を抱きしめてくる。ほのかな体温に嫌な気はしなかった。
最初こそ監禁まがいのことをされて混乱したけれど。彼はどうしたらいいかわからなかっただけなのだろう。
ちゃんと付き合えば彼に普通の付き合い方を教えてあげられるだろう。
「……うん、好きだよ。ナナト君が好き」
真っ直ぐにナナトを見て答えると、ナナトは微笑む。
「嬉しいよ。ケイコさんは、ずっと一緒にいてくれる?」
「うん」
「良かったぁー。ねぇ、ヨゾラ聞いてた? 」
「はい」
ヨゾラ先輩は台所で料理の仕込みをしている。彼の作る料理は絶品で、月曜日から食べられなくなるのが残念なほどだ。
「じゃあ、俺ケイコさんと付き合うから」
先程の様子と違ってナナトは淡々と告げる。台所からは変わらず包丁の音が軽快に響く。
「おめでとうございます。今日はお赤飯ですかね」
「えー俺肉がいーな、ステーキとか」
「バイト代が入ったら考えます」
「ケチ!! ね、ケイコさんもステーキがいいよね! 」
「ふふ、そうだね」
「あ、ヨゾラ。月曜日さぁ、ケイコさんの退学届取ってきてよ」
「え」
先程のふわふわした気持ちが一瞬で冷え切っていく。今のは聞き間違い?
「どしたの」
「ナナト君、さっき退学届って言わなかった……? 」
「うん。もうケイコさんはうちの子だから外に行かなくていいよ。ずっとここにいて」
優しげに目尻を下げてナナトは当然の事のように言う。
「ここにいてくれるだけでいいの。何もしなくていい。料理も洗濯もヨゾラがするし、俺が外で働いて、ケイコさんの欲しいものを買ってくるから」
「はい、僕達にお任せください」
ゾクリと背中に冷たいものが走る。
「そんな、私帰る……! 日曜日の夜までって言ったじゃない」
足枷を外そうとするが、 のついたそれは簡単には外れない。
「……は? 」
今まで聞いたことのない、不機嫌なナナトの声が響き、思わず足枷を持つ手が止まる。
「ずっと一緒いてくれるって言わなかった? 俺、嘘つきは嫌いなんだけど」
どんどん雰囲気が重くなる。空気が尖って呼吸のたびに刺さるような心地さえする。
助けを求めようと咄嗟にヨゾラ先輩に目線を向ける。
ヨゾラ先輩は優しく微笑んでいた。
この状況で、雰囲気でただ静観し、成り行きを見守るように。
助けはとても期待できなかった。
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