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”
「あんた……、馬鹿なのか? 俺は、偽名を使ってあんたを騙した人間だぞ?」
「それくらいの方が、スリルがあって面白い」
陽介は、余裕の笑みを浮かべている。
「正直、オメガを使ったハニートラップは、何度か仕掛けられたことがある。その場合、オメガたちは単なる駒に過ぎなかった。でも、君は違うだろう。何かはわからないが、君は確固たる信念と目的を持っている。そこに興味を惹かれたんだ。……それに」
陽介はからかうように、蘭の顎をくいと捉えた。
「何せ君は、『運命の番』だからな」
蘭は、慌てて陽介を振り払った。
「勝手に思い込むな! 俺はそんなこと、みじんも感じちゃいない!」
話にならない、と蘭は乱暴に車のドアを開けた。だが、遅かった。外には、満面の笑みを浮かべた養母が立っていたのだ。
「蘭、いつまで車の中で話しているの? さっさと、陽介先生をお通ししないと」
「えっと、母さん、これは……」
どうやら、陽介と養父母の間には、すでに約束が取り付けてあったようだ。どう言い訳しようかあたふたしていると、陽介が車から出てきてしまった。
「市川さん、こんばんは。夜分失礼したします」
紳士然と微笑む陽介を見て、養母はぽっと頬を染めた。
「いえいえいえ! さあ、どうぞお入りくださいな。大したものは、ご用意できていませんが……」
養母は、押し込むように家の中へ二人を案内する。にやにや笑う陽介を横目に、蘭は歯ぎしりしながら彼女に従ったのだった。
大したものはない、というのはとんでもない謙遜だった。食卓には、ついぞ見たことがないほどのご馳走が並んでいる。その横には、今にも踊り出しそうなほどの興奮状態の、養父の姿があった。
「これはこれは、陽介先生。ようこそお越しくださいました。さあさあ、どうぞおかけになって」
陽介は、品良く礼を述べて着席する。蘭も、渋々隣に座った。落ち着かない様子の養父母に向かって、陽介はぴしりと背筋を伸ばして告げた。
「この度は、急なお願いにもかかわらず、お時間を取っていただきありがとうございます。……率直に、申し上げます。僕と蘭さんは、以前から交際していました。蘭さんを、心から愛しています。幸せにするつもりです。どうか僕たちの結婚を、お許しいただけないでしょうか」
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