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”
「――なっ……」
蘭は、言葉を失った。正体が、バレていたというのか。それにしても、なぜわざわざ実家まで連れてきたのだ……!? 陽介は、そんな蘭をじっと見つめた。
「君のことは、全て調べさせてもらった。本名市川蘭、二十八歳。『M&Rシステムズ』社長の養子。『日暮新聞』を退職したばかり」
蘭は、ふうっとため息をつくと、陽介を見つめ返した。誤魔化すのは諦めた。猫をかぶるのもだ。
「――この短期間で、よく調べたな」
「昨日の朝、君と別れてすぐにな。わけもないことだ」
蘭は、唇を噛んだ。
「何のために、俺に近づいた? 偽名まで使って。目的は何だ」
「……」
蘭は、黙り込んだ。蘭が、自分の父親が圧力をかけて潰した記事を書いた記者だとは、知らない様子だ。無名の若手記者だったのが、幸いした。だが、計画失敗に変わりはない。果たしてこの後、どうすべきか。蘭の頭は、フルスピードで回転し始めた。
「だんまりか。……ま、素直に白状するとは思っていなかったけどな」
陽介は意外にも、あっさり引き下がった。そして何と、車を降りる準備を始めるではないか。
「取りあえず、行こうか」
蘭は、ぎょっとした。
「おい、何考えてる? お宅の息子は、偽名を使って自分を誘惑しましたって、告げ口でもする気かよ?」
「まさか」
陽介は、けろりと否定した。続いて彼は、とんでもない台詞を口にした。
「息子さんを僕にください、とお願いするためさ」
「――!? 何だって?」
蘭は、耳を疑った。
「君を気に入ったと言ったろう?」
「い、いや、でも……。俺は愛人だろ? 親に挨拶なんて……」
どういうことだ。第一、テレビで宣言した結婚相手の件は、どうするつもりなのか。すると陽介は、肩をすくめた。
「何だか話が噛み合っていないな。いつ俺が、君を愛人にすると言った?」
蘭は、はっとした。確かに陽介は、こう言っていた。
『面倒はみるつもりだから』
生活を金銭的に保障してくれるか、という蘭の問いにも肯定した。てっきり、愛人として囲うつもりと思い込んでいたが……。
「もしかして、今朝言っていた結婚相手って……」
「そう。君だよ」
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