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「まさか……」  そう、と陽介は頷いた。 「君の渡航予定がわかって、すぐに調整した。今日から日本の総理大臣は、三日間の夏休みに突入だ」 「陽介……」  蘭は、思わず涙ぐみそうになった。反発するようなことばかり言ったのに。こっそり、そんな予定を組んでくれていたなんて。 「しかし君、そんな質問をするということは、日本のニュースはチェックしていないのか?」  陽介が、ちらりと蘭の方を見る。その顔には、何やら意味深な笑いが浮かんでいた。 「こっちでの取材に没頭していたから、あまり……」 「そんなことだろうと思った。子供たちにも、口止めしていたしな」  陽介がスマホを取り出し、ニュースサイトを見せてくる。その見出しに、蘭は息を呑んだ。 『白柳首相、夏休みの過ごし方は、何と結婚式!』  記事には、白柳総理夫妻が、夏休みを利用して北欧で挙式する、と書かれていた。 「結婚当時に挙式しなかったのは皆知っているし、二人で渡航した言い訳になるだろう? ついでに記者の奥様は、取材もしました、と」 「本気なのか?」  まさか、ここまでの大事に発展するとは。罪悪感が募ってきた蘭だったが、陽介は意外にも優しい笑みを浮かべていた。 「反省はして欲しいが、落ち込む必要は無いぞ? 式を挙げたいという俺の気持ちに、偽りは無い」  ドキリとした。新婚当初は、陽介の母親が反対していたことや、蘭もハニートラップ目的だったことから、何となく挙式は見送ったのだが。  ――でも。陽介は、本当はやりたかったのか……? 「偶然だが、スウェーデンの結婚式はシンプルらしいから。教会で、二人だけで挙式しよう? ま、今度こそSP付きだが」  くっくっと笑う陽介に、蘭は思わず抱きついていた。 「ありがとう! そして、迷惑をかけて本当に申し訳なかった。次に海外取材に行く時は、ちゃんと気を付けるから」  蘭の背中に腕を回そうとしていた陽介の動きが、止まった。 「次だと?」 「うん」  蘭は、顔を上げて陽介を見つめた。 「記者としてのキャリアは、諦めたくないから。それに、今回で慣れた。是非、別の国にも行ってみるよ。あっ、もちろんその時は、自腹でボディガードを雇うからな?」  陽介の表情は固まった。 「それから、事前調査もちゃんとする。教訓は活かさなくちゃな」  うんうんと頷く蘭を、陽介が再び抱きしめる。頭上からは、しみじみとした声が降ってきた。 「仕方ない。そんな君が、俺は好きなんだから。……楽しみにしていろよ、二人きりの挙式」 「二人じゃないだろ。ウィズ・SP」  クスクス笑いながら、蘭は陽介の唇に口づけた。愛する夫のタキシード姿を想像して、胸を膨らませながら。                      蘭、海を渡る:了

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