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第1話

「ねー、先輩。俺と付き合ってよ」  桜が舞い、新緑がわずかに顔を出し始めた頃。    大学のサークルメンバー募集の為、勧誘係に駆り出されていた三年のアキラは、新入生と思われる男に声をかけられた。  背が高く、少し釣り上がった目尻に泣き黒子、整った顔立ち。茶髪に耳にはイヤーカフとピアス。首には銀色のヘッドホンがかけられていて、いかにも『遊んでいる』風貌だった。  カリキュラムの説明や、単位の取り方などが書かれた書類が入った紙袋を片手に持ったまま、アキラを見てニヤニヤしている。 「いきなり告白とはな。俺が? お前と? 」  呆れたように言うと、新入生は首を縦に振る。 「そー、そー。俺、アンタがいいんだよね。退屈させないからさ。ダメ? 」  新入生は上目遣いでコテンと首を傾げる。 ーーあざとい奴だ。コイツは自分というものが良く分かっている。これはだいぶ遊んでるな。  と、アキラは思ったが口には出さず、ニコリと笑う。 「……いいぞ。お前の顔、割と好みだしな。名前は? 」 「カナト。結城カナトだよ。よろしくね、せーんぱい」  カナトと名乗った新入生はアキラの手を取って、手の甲に軽く口付ける。  それは騎士が姫に忠誠を誓うようで。恭しく行われたそれは、まさしく崇高な儀式の一幕のように感じられた。  そばにいた他の勧誘係は呆気に取られている。アキラは驚きはしたものの、悪い気はしなかった。 「俺は高瀬アキラだ。よろしくな、カナト」  こうして唐突な邂逅を経て、アキラとカナトは付き合い始めた。  お互いの思惑を隠したまま。
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