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第1話 衝突事故? <Side 穂永
掴まれたネクタイに、顔を寄せられる。
ぶつかったのは、唇だ。
ふにっと柔らかなオレの唇に、薄く微かに荒れてカサつくそれが、ぶつかってきた。
一瞬の空白。
何が起きたのかを理解できずに、真っ白になった頭が再起動する。
「何しやがんだ!」
オレのネクタイを掴む男、来須 侑倫 の胸を、渾身の力を込めた拳で殴りつけた。
189センチの大男vs162センチのオレンジ頭の構図が出来上がる。
場所は、放課後の教室だ。
どうみたって、分があるのは大男、つまり来須の方。
図体のでかさも然 ることながら、馬鹿と称するに値するほどの力を持つ。
ただ、喧嘩慣れしていない来須に、人を殴るという選択肢は存在しない。
オレは、慣れているという訳ではないが、口より先に手が出るタイプのために、反射的に来須を殴っていた。
背が低いのを誤魔化すように、…背の低さよりも髪色のオレンジに目が向くように、制服を着崩し不良感を出してはいるが、実際の喧嘩などしたコトはない。
オレは、なんちゃってヤンキーだ。
それでも。
「………っ」
拳の衝撃に息を詰め、声を失う来須。
手放されたネクタイに、殴った反動で後ろへとよろけたオレの足が絡まる。
「………ぁ」
転ぶ。
思ったのに、ぐっと掴まれた二の腕が、それを回避した。
ただ、馬鹿みたいな握力で掴まれた腕は、転ぶよりも痛い。
「ぃってぇなっ!」
体勢を立て直し、腕を掴む来須の手を振り払う。
「ぁ、……ごめん」
しょぼんと悄気た声が、頭上から降ってくる。
音に惹かれるように持ち上げた視界には、くっきり二重で猫目なオレとは対照的な、笑うとなくなる切れ長の一重が映る。
その瞳は、酷く申し訳なさそうな色を浮かべていた。
謝る来須に、オレの眉根が、きゅっと寄る。
「なんの“ごめん”だよ? 腕を馬鹿力で掴んで“ごめん”? ネクタイ掴んでキスして“ごめん”?」
詰めるように下から睨 め上げた。
………。
キスして“ごめん”ってなんだよ!
腕の痛みに忘れていたさっきの唇の感触が蘇った。
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