1 / 18

第1話 衝突事故? <Side 穂永

 掴まれたネクタイに、顔を寄せられる。  ぶつかったのは、唇だ。  ふにっと柔らかなオレの唇に、薄く微かに荒れてカサつくそれが、ぶつかってきた。  一瞬の空白。  何が起きたのかを理解できずに、真っ白になった頭が再起動する。 「何しやがんだ!」  オレのネクタイを掴む男、来須(くるす) 侑倫(ゆきとし)の胸を、渾身の力を込めた拳で殴りつけた。  189センチの大男vs162センチのオレンジ頭の構図が出来上がる。  場所は、放課後の教室だ。  どうみたって、分があるのは大男、つまり来須の方。  図体のでかさも()ることながら、馬鹿と称するに値するほどの力を持つ。  ただ、喧嘩慣れしていない来須に、人を殴るという選択肢は存在しない。  オレは、慣れているという訳ではないが、口より先に手が出るタイプのために、反射的に来須を殴っていた。  背が低いのを誤魔化すように、…背の低さよりも髪色のオレンジに目が向くように、制服を着崩し不良感を出してはいるが、実際の喧嘩などしたコトはない。  オレは、なんちゃってヤンキーだ。  それでも。 「………っ」  拳の衝撃に息を詰め、声を失う来須。  手放されたネクタイに、殴った反動で後ろへとよろけたオレの足が絡まる。 「………ぁ」  転ぶ。  思ったのに、ぐっと掴まれた二の腕が、それを回避した。  ただ、馬鹿みたいな握力で掴まれた腕は、転ぶよりも痛い。 「ぃってぇなっ!」  体勢を立て直し、腕を掴む来須の手を振り払う。 「ぁ、……ごめん」  しょぼんと悄気た声が、頭上から降ってくる。  音に惹かれるように持ち上げた視界には、くっきり二重で猫目なオレとは対照的な、笑うとなくなる切れ長の一重が映る。  その瞳は、酷く申し訳なさそうな色を浮かべていた。  謝る来須に、オレの眉根が、きゅっと寄る。 「なんの“ごめん”だよ? 腕を馬鹿力で掴んで“ごめん”? ネクタイ掴んでキスして“ごめん”?」  詰めるように下から()め上げた。  ………。  キスして“ごめん”ってなんだよ!  腕の痛みに忘れていたさっきの唇の感触が蘇った。

ともだちにシェアしよう!