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第2話 食べてみた?
時間を、少し遡ろう。
1週間後に控えた学園祭の準備で遅くまで作業をし、各々が帰宅の途につく。
校門を出る直前に、課題のプリントを鞄に入れるのを忘れたコトに気づき、友人たちを先に帰し、オレだけが教室へと引き返した。
戻った教室には、最後まで片付けをしていたのであろう来須しか残って居なかった。
廊下側の前方にある自分の席まで足を進め、プリントを取り出し、来須に声をかけた。
「早く出ないと鍵、閉まるぞ?」
最終の下校時間が、迫っていた。
その時間までに外に出なければ、生徒用の玄関は鍵がかけられ、少し遠い教職員用の通用口まで行かなくてはいけなくなる。
遠回りをするのは面倒だろうと、扉のそばから教室の奥にいる来須を急かした。
オレの声に呼び寄せられるように、がっと鞄を肩に掛けた来須が近寄ってきた。
……次の瞬間だった。
気づけば、ネクタイを掴まれ、背を曲げた来須にキスされていた……。
違う。違う、ちがうっ。
こんなのキスじゃねぇ。
これをキスだなんて認識させちゃ、ダメだ。
来須に、そう思わせちゃ、ダメなんだっ。
オレは思わず、袖口でごしごしと唇を拭う。
「ぁ、だめだめだめっ」
ごしごしと唇を擦る腕を、またしても馬鹿力が制圧にかかる。
「いだだっ……っ」
痛みに、顔から離した腕を、後方へと逃がす。
釣られるように、来須の顔が寄ってくる。
空いている来須の手が、オレの唇にそっと触れた。
「ほら。赤くなってるじゃん」
残念感を纏いながら、叱るように紡がれる来須の声。
柔らかな声と、下唇を撫でる親指のあまりの優しさに、きょとんとしてしまうオレ。
何故だか、空気までピンク色に染まっていく気がした。
予想外の展開に、雰囲気に飲まれるオレの唇に、ぬろっとした感触が這いずった。
びくっと身体を揺らし、顔を引いた。
オレの視界には、今さっき唇の上を這った来須の舌が映る。
舌先を唇の外に出したまま、艶かしい瞳でオレを見詰める瞳。
ついでに漂う男の色香。
ぇ? え?
オレの脳は、現状を理解できない。
次々に展開される来須のあり得ない言動に、処理速度が追いつかない。
疑問符だらけの瞳を向けるオレに、来須は首を傾げた。
「ウエルカムって聞いたから。僕も食べてみたかったから。……食べてみた?」
疑問符が疑問符で返ってきた。
オレの中の謎は、深まるばかり。
この期に及んで、オレは何を問われてるんだ?
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