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第3話 同じ顔の一卵性双生児
―― 3日前に遡る。
ふにふに。ふにふに。
何をされているのか。
唇を指先で、ふにふにされている。
同じ顔の2人が、各々の指先をオレの唇に当て、ふにふにと押してくる。
目の前に座っているのは、水面 洸 という双子の兄と、煌 という弟。
オレとこいつらの関係は、気心の知れた幼馴染み。
洸は同じクラスだが、煌は隣のクラス。
洸くん大好きな煌は、休みの度にこうしてここに、やって来る。
―― さらに数分前の話。
「俺とこいつ間違う? ありえんくない?」
この言葉を放ったのは、洸だ。
煌と自分を指差し、眉を八の字に垂らす。
同じ顔の一卵性双生児。
緩いウェーブのかかった天然茶髪は、ボブカット。
一重のわりに目力のある瞳に、大きめの口許。
見た目の軟派なイメージそのままの性格の2人。
身長体重ほぼ一緒。
骨格が似通っている分、声も似る。
強いていうなら、喋り方や笑い方が、ほんの少しだけ違うくらいだ。
長年の付き合いであるオレですら、時折迷うのに、ぽっと出の彼女が見分けられるはずもない。
……とは思うが、それは言うまい。
フラれ落ち込む洸は、慰めろ、癒せと、オレの唇をふにふにし始めた。
洸の仕草に乗っかるように、どさくさに紛れ、煌までもがオレの唇をふにふにする。
「マジでなんなんだよ? この神感触…」
ぼそりと放たれる煌の声に、はぁあっと深く息を吐いた洸が言葉を繋ぐ。
「おっぱいより気持ちいいよなぁ」
しみじみと紡がれる声色に、ふへっと変な音が漏れた。
「おっはいより気持ひいいって、なに?」
唇をふにふにされながら紡いだ言葉は、どこか間抜けだ。
洸の言葉も、自分の間抜けな声も可笑しくて、笑いが漏れる。
「食べたくなる」
ぼそりと放たれた煌の声に、洸の頭が細かく縦に揺れた。
「はむって咥えたら堪んなよな、きっと」
続けて呟かれた煌の言葉に、2人の指先がオレの唇を離れた。
「わかるわぁ」
なっ、と同意を求めるように、お互いがお互いを見合い、指を差し合う2人。
シンクロする双子の思考回路に、オレだけが首を傾げた。
「食べたいってなんだよ。……食ってみる?」
じゃらけついでに、にゅっとタコのように唇を突き出し、2人に顔を寄せるオレ。
「お前の唇なんて、いらんわ」
足蹴にするような褪めた瞳を向けながら声を放った煌に、洸の言葉が続く。
「女の子のなら喜んで食ったけど」
両頬をそれぞれの掌で押され、顔を跳ね返された。
「食いたいっていったのお前らじゃねぇか。オレはウエルカムって言っただけじゃん」
むすっと、わかりやすく膨れっ面を作る。
見下すような冷ややかな瞳でオレの顔を見やりながら、煌が声を返してくる。
「お前の唇は、触り心地が最高だって話で、本気じゃねぇの」
煌の言葉に相槌を打ちつつ、洸も否定を放つ。
「そうそう。マジで食いたいとは思ってねぇの」
うん。知ってた。
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