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第4話 嫌われるよりも、よっぽどいい

―― と、現在に戻る。  来須は、この会話を近くで聞いていたのだろう。 「食べてみた? ……じゃねぇよ!」  来須の言葉を反芻し、飲み込みかけて吐き出した。  キッと睨み直し、苛立ち(まみ)れの声を放つ。 「お前、わかってんの?」  主語の足りないオレの言葉に、来須はわかりやすく疑問符を浮かべる。 「オレのキスは遊びじゃねぇの。友達同士がふざけてするキスとは意味合いが違ぇんだよっ」  オレは、ゲイであるコトを隠してはいない。  性的対象が同性であっても、異性愛者とかわらない。  男なら、誰でも好きになる訳じゃない。  全てを、そういう目で、…いやらしい目で見ているわけじゃない。  オレはオレを、ちゃんと理解してくれる両親、友人、知人に恵まれた。  だから、真っ直ぐに生きてこられた。 「洸や煌は、それをわかってる。だから、ふざけたコトも言える。そんなオレの冗談に乗ってこないって知ってるから、ふざけた軽口だって叩ける」  ちゃんと解り合っているからこその冗談なんだ。  小耳に挟んだコトを、すべて本気で捉えるなよっ。 「なんでお前、真に受けてんだよっ」  来須を睨む目の奥が、じわりとした熱を帯び、痛みを覚える。  全ての男性をそういう目でみている訳じゃないけど。  オレの中の来須は、特別だ。  オレは、来須に恋心を……、持っている。  でも。  それは見せてはいけないものだって、わかってる。  気味悪がられ嫌われてしまうくらいなら、想いは見せないし、隠し通す。  “恋人”などという特別枠に入れなくていい。  “友達”という平凡な関係でいい。  “クラスメイト”というありきたりな関係でいい。  嫌われるよりも、よっぽどいい。  全く、なかった訳じゃない。  人と違うからと、マイノリティだからと、迫害された経験が、皆無だなんてコトはない。  辛い経験が、オレの脳裏を過ぎていく。  掘り起こされた記憶に、胸がずきりと痛みに鳴く。  ぁあ、くっそ。 「嫌がらせか? オレがゲイだからっ、ホモだからっ、気持ち悪いって。自分を犠牲にしてまで、オレに嫌がらせしてぇのかよ?!」  好きでもない奴からのキスなんて気色悪いだけだろうと、わざとにしたのか。  ……なんで“好み”が少し違うだけで、ここまでされなきゃいけねぇんだよ。  目の奥の痛みは、じわじわとした洪水の呼び水だ。  じんわりと広がった水の膜は、すぐに決壊し、頬を伝う。  オレは慌て、顔を俯けた。

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