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第5話 にゃ……

 泣きたくねぇ。  こいつに、こんな弱い自分を見られたくない。  なのに、零れた涙は誤魔化せない。 「まままま、まって、待って!」  俯くオレの頬を両手で包んだ来須に、ぐいっと顔を上げさせられた。 「……っ」  いってぇんだよ、馬鹿力がっ。  むにゅりと両側から挟まれ、歪まされた頬に言葉が紡げない。  精一杯の苛立ちを込め睨める瞳も、涙塗れでは、なんの迫力もないだろう。  愚図る子供のようなオレの顔に、来須は困ったような笑みを浮かべた。 「ごめんね。足りなかった。言葉足らず」  へへっと困り顔のままに笑った来須は、流れてしまったオレの涙を、乾いた大きな掌で吸い上げた。 「違うよ。……………きで…」  オレの目を見ていたはずの来須の瞳が、言葉尻に合わせ、顔ごとふわりと上空へ逃げた。  両頬は、来須に捉えられたまま。  オレは、顔を動かすコトすら叶わない。 「にゃ………っ」  なに? と言いたかったのに、オレの口から吐き出されたのは、猫のような一声だった。  じわりと、様子を窺うように戻ってきた来須の瞳。  来須の頬から首筋、終いには鎖骨の辺りまで赤く染まった。  恥ずかしい思いをしたのは、変な声を出してしまったオレだろ?  なんで、来須が赤くなってんだよっ。 「なに、可愛い声だしてんの……?」  恥ずかしそうに真っ赤に染まった顔のままに、ぼそりと呟かれる声に、オレの顔まで赤さが伝染してくる。 「ち、が………っ」  頬を挟み込んでいる来須の両手を、意地で引き剥がす。 「お前の馬鹿力で顔潰されてたら、真面に喋れねぇだろうがっ。わざとじゃねぇしっ」  照れを誤魔化すように、声を張り上げた。  ぐっと眉間に皺を寄せ、睨み上げるオレに、来須は、へらりとした笑みを見せる。 「はは…………、好き」  嬉しそうな笑い声の後、さらりと放たれた言葉に、またオレの脳がフリーズした。

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