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第18話 ふにふに専有権

 洸が充分離れたのを見計らい、口を開く。 「お前は永遠に、洸の帰れる場所…安らげる場所なんだよ。ヤキモチなんて妬く必要ねぇじゃん」  なにを焦る必要があるのだというように、紡いだオレの言葉に、煌が小さく反抗した。 「取られたくないからって邪魔してた訳じゃないんだけどさ。傷ついてほしくなくて、さ……」  煌も煌で、あのやり方は間違っていると薄々勘づいていたんだろう。  反省の念が込められた寂しそうな音が耳に届く。  後悔が滲む煌の姿に、これ以上責めるのは酷だとオレは洸にかまわないコトを提案する。 「痛い思いをすればいいんだよ。経験が、人を育てるってコトもあんだろ。もう、ガキじゃねぇんだから、放っとけば良いんだよ」  ニッとした笑顔を作るオレに、煌が半分納得する。 「んで、傷ついた時に、傍に居てやればいいんじゃねぇの? 癒してやればいいじゃん」  な? と、首を傾げ同意を求める。  消化しきれていないような顔をする煌にオレは、さらに言葉を繋いだ。 「傷つかないようにするだけが、守るってコトじゃないだろ。傷つくコトで、知れるコトだってあるわけだしさ」  洸だって、馬鹿じゃない。  ろくでもない相手だったとしても、見極める目くらい持っている。  傷ついて帰ってきたときに、その傷を癒す手伝いをすれば良い。  ずっと黙ってオレたちの話を聞いていた来須が口を開いた。 「僕の帰る場所は、……」  ぼそりと放たれた声に顔を向けた瞬間、オレの唇がふにゅりと押し潰された。 「ここ。いつか消えちゃうかも、だけど……。だから、僕はヤキモチ妬くよ。絶対なんてないから……」  寂しげな雰囲気を持ちながら、また口許だけが強がりを見せる。  オレは唇を押し潰す来須の指先に、叱る意味合いを込め、ばくりと噛みつき、すぐに解放する。 「付き合って早々に別れる心配してんじゃねぇよ」  じとっとした視線を向けるオレに、来須の瞳は噛みつかれた指先を見詰める。 「絶対はねぇけど、心配しなくても、オレの全部はお前のもんだよ」  放った台詞が恥ずかしすぎて、視線を背けた。  自分の専有権をすべて、来須に与えてやった。  寡黙と言うよりは、口下手で引っ込み思案。  たまに謎のスイッチが入ると、色気を撒き散らし、オレを翻弄する来須。  来須を不安にさせないように、…その嫉妬の炎に焼け焦がされてしまわないように、専有されてやるコトにした。  頭のてっぺんからから足先まで、オレの持ちうるふにふにの専有権は、来須のものだ。 【 E N D 】

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