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紫陽花(4)
紫陽花を模したゼリーと練りきりの菓子。
泉に雨粒が零れる様を模した寒天。
雨上がりの澄んだ空気と夜空を模した菓子。
盆に乗せられた菓子の1つ1つが、この時期独特の風景と色合いを表している。
先ほど本殿に咲良がお供えしていったものだ。
「ほう…。
界渡りの姫のお手製とは…。
…………なんと……」
ご祭神である鬼の青年が小さな盆をそっと持ち上げた。
「……ふむ」
上から見る。
「紫陽花…泉…空…。
美しい…」
横から見る。
「ふむ…。
作り手の丁寧さが良く分かる…」
斜め上からも見る。
「なんとも美しい…。
心持ちが表れているな…」
頭の中のイメージを絵にするだけでも難しいのに、それを菓子として成立させるとは。
「可愛らしい上に器用とはな…。
しかも健気で頑張り屋とくれば、ばば殿もたまらぬだろうて」
ひと口、食べてみる。
「……………!
なんと!これは…っ!」
「うまい…。
熟練の職人もかくやと思えるほどの美味。
日々、料理の腕を上げていっているのがうかがい知れる。
あの年齢でこの技量…。
対の鬼の胃袋もガッツリ掴むのは間違いない…」
鬼の溺愛に底は無い。
子が望めぬ場合は特に深くなる傾向がある。
元々鬼が好む容姿と気性、そこに胃袋まで掴む料理の腕…。
「あの幼い姿から年相応のものになれば、亭主は我慢が利かぬかもなぁ…。
ま、物静か過ぎる分、姫に振り回されるのもたまには良い、かな…」
もうひと口食べてみる。
「………うまい…。
そうだな……。
美味なる菓子の礼に、困った時は手を貸してやろう…。
ふふ…」
いずれ来る時に、そっとひと押ししておこう。
鬼はそう心に決め、御神木の中へ帰っていった。
紫陽花・END
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