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欲求不満な残念勇者⑴
「結婚してくれ…」
「嫌だ!」
「何で!うっ、あ痛たたた…」
ガバリと起き上がろうとして痛さに呻いてまた寝そべる。
「お前は馬鹿か!腸が汚れる、じっとしてろ!」
現在、俺こと勇者は魔王直属の部下3体に同時に不意打ちで攻撃を掛けられ、横腹を切られて死にかけている。魔王の配下はみな聖剣で葬り去ったが、俺も手足のあちこちに傷を負い横腹の傷は致命傷だ。もう助かるまい。
だから心置きなく死出の旅路に就きたくてプロポーズしたのに、この幼馴染はあろうことか断りやがった!
「ハアハア、お前…魔王退治の危ない旅を…一般人のお前がここまでついてきたんだ…俺の事嫌いじゃないんだろ?…痛てて…それにもうすぐ死ぬんだ…嘘でもハイって言えよ…」
「うっせーぼけ、こんくらいで死なねーよ、黙って治療されてろ」
そう言って高価なエリクサーを、はみ出た腸をジャブジャブ洗うことに使いやがる。
「ああぁ…勿体ねえ…そんな大量に使いやがって…。」
「安心しろ、この旅が終わったら代金全部お前に請求してやる。それまで絶っ対死なせねえ」
「守銭奴か!あ痛たた…」
何て血も涙もない奴なんだ!お前なんか地獄に落ちろ!俺と一緒に血の池めぐりだ!
「言っとくがな、お前がここで死んだら、独り残された俺は魔王とその配下になぶり殺しにされるからな。それだけならいいけど、あいつらは人間の恐怖と嫌悪が大好きだからな、俺きっと犯られるぜ。エロエロのグッチョングッチョンで "いやぁ~んらめぇ" って言っちゃうからな」
「!!」
けしからんもっとやれ!
いや間違えたそんなことはさせん!!するなら俺がする!
幼馴染は心の声が聞こえたのか一瞬半目になった。
「…お前は惚れた相手がそんな目にあってもいいのか?嫌だよな?そうだろ、そうだよな。それが嫌なら死ぬなよ。分かったらおとなしく寝てろ」
「ふぁい…」
くそー、惚れられた強みを最大限に活かしやがって!
勇者の貫禄?そんなんはいらねえ、俺は喜んでこいつの尻に敷かれてやる。石にしがみついてでも生き延びて魔王を倒し、こいつに「素敵抱いて!」って言わせてやる!
勇者が道端に転がされ洗った腸を押し込まれてるという何とも情けない姿を、けしからぬ妄想の現実逃避でひたすらに耐えた。
かくして勇者は無事に生き延びたのであった。
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