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第1話

 俺が高校から帰ると、母が血相を変えて家の前に立っていた。  青いセキセイインコのアオが逃げたきり帰ってこないらしい。  雛の頃から俺が大切に世話をしてきたアオ。 『幸せの青い鳥だから、アオ』  小学生だった俺が、友達のお兄さんから聞いた青い鳥の物語から付けた名だ。  ほんの数時間前、俺はサッカー部のレギュラーをケガではずされた。  レギュラーになった喜びも束の間のケガだ。  幸せの青い鳥が逃げたから、不幸が訪れたのか。不幸になったから逃げたのか。  どっちにしろ、二つの不幸が俺の所に仲よくやってきた。  鞄を母に渡すとケガの足を引きずりながら、アオを捜しに出かけた。  珍しく明るいうちに帰ってきたというのに、すでに空はうっすら赤く色づいている。  寒々とした俺の心と同じように、真冬の空気で体も冷えきっていた。  今シーズンの寒波は人間の俺でも堪える。  南国生まれの祖先を持つアオには、かなり厳しいはずだ。早く見つけなければ命に関わる。 いつもは見向きもしない路地裏へ、まるで吸い込まれるように入っていった。 小さい頃、友達とよく遊んだ小道だ。  高校生になった俺にとって生活リズムに関係ない道は、いくら目の前にあっても足を踏み入れることはない。  たとえ存在しようとも無いのと同じだ。  砂ぼこりの立つ小道は、俺が来ない間にアスファルトで舗装されていた。  それでも哀愁を帯びて感じられるのは、古びたアパートや家が点在するからだろうか。 ――そう言やあ、あいつの家って、この辺だったよな  同い年のあいつとは、この路地裏でよく遊んだ。  アオを鳥籠に入れ、この道をあいつのお兄さんに見せるため通ったこともある。  あいつのお兄さんは六つ上だったから、当時は今の俺と同い歳だった。  幼かった俺には、凄く大人びて見えたし、優しくてかっこよかった。  その頃の彼に比べたら、見た目も精神的にも今の俺はひどく幼く感じる。  昔の思い出に浸りながら、辺りを見回してもアオの姿は見当たらない。  もっと遠くへ行ってしまったのか、それともお門違いな場所を探しているというのだろうか。

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