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第2話
青の名を呼ぶのは恥ずかしくって、口笛を吹いてみる。
「ピー!」
口笛に答えるように鳥の鳴声がした。
鳴き声の方を見ると、古びたアパート二階の手摺り左手にアオがいた。
右手には今にも飛び掛かろうと体を低くした猫がいる。
「アオ!」
俺が叫ぶのと同時に猫がアオに飛びかかった。
思わず俺は目をつぶる。
「キキ、キキ、キキキ――ッ!」
アオの断末魔が狭い路地裏に響く。
恐る恐る俺は目を開けた。
離れた家の陰に、小さくなった猫が消えていくところだった。
震えながら猫を見送った俺の耳に、アオの騒ぐ声がする。
「いててててっ! バカ、インコ! 命の恩人を噛むんじゃねぇー!」
見上げると虫取り網に入ったアオと格闘している青年がいた。
その顔に、脈拍がさらに速まった。
ついさっきまで思い出していた、あいつのお兄さんによく似ている。
ただ、彼より少し細めな目許は気が強そうで、小学生だったあいつのものにそっくりだった。
「恩知らずは食っちまうぞ!」
大きく開けた口元へアオを運ぶさまは、本当に食べようとしているように見える。
しかも狭いところの大好きなアオは、首を伸ばし自ら口の中へ入ろうとしていた。
「やめろ!」
俺の叫び声に驚くでもなく、青年は広角を上げて、いたずらっぽい笑顔を向けてきた。
そのきれいにU字を描く口元には見覚えがある。
「こいつ、ひょっとして、あんときのインコ? まだ生きてたんだ」
やっぱりあいつだ。
「返せよ!」
あいつがアオを助けてくれたことに感謝するものの、会いたくなかった気持ちを露わに下から見上げ睨みつけた。
どうして会いたくなかったか理由はすっかり忘れてしまったが、心の端に引っ掛った嫌悪感だけが残っている。
「ほらよ」
あいつは、ためらうことなく手を開いた。
「バカ! そこで放すなよ!」
すっかり茜色に染まった空に、小さな影が舞い上がった。
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