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第3話

 昔もこんなことがあった。  あいつのお兄さんに見せようと持っていた鳥籠を、無理やりあいつが奪い取ろうとしてアオが逃げたのだ。  あのときは、しばらく空を旋回して俺の所に戻って来た。 「アオ!」  俺は頭にわずかな重みを感じた。  続いてドンという音がすると 「やっぱな。こいつもおまえが好きだから、必ず戻ってくる」 すぐ側で声がした。  年季が入ったアパートの二階から、あいつは飛び降りたのだ。  こいつは昔と変わらず無鉄砲な乱暴者だ。  頭上で騒ぎ出したアオを、慌てて俺は捕まえた。 「おまえ、お兄さんに似て来たな」 「兄貴、同棲中だよ」  不愉快そうに視線を逸らして、あいつがぼそりと呟いた。 「へえ、同棲だなんて意外」 「たぶん、結婚する」 「ああやっぱり。お兄さんて真面目だもんな」  あいつが俺の顔を不思議そうに覗き込んでくる。  もともと作りの良かった顔は、歳を重ねて苦み走った男前になっていた。  幼い頃のこいつは、ガキ大将だったから女子受けは最悪だった。  それが高校生になったとたんにモテ始めたと風の便りに聞いた。  こうしてもてる男の実物を目の当たりにすると、なんだか居心地が悪い。  俺だって女子に嫌われてはいないと思うが、男臭いこいつとは女子受けの質が違う気がする。 「な、なんだよ」  あいつの癖なのか、話をしていると次第に顔が近くなる。小学生の頃はそれほど気にならなかったが、高校ともなると男同士とはいえこの距離はかなり気恥ずかしい。 「おまえ、兄貴のこと好きだったんじゃねえのか」 「好きだったよ」 「だったら、よく結婚するって聞いて平気でいられるな」 「好きって……ああ、おめでとう。なんか祝いの品でも渡したほうがいいかな?」  あいつの言っている意味がよくわからなくて、ついおどおど返す。  ますます近くなった距離に、息苦しくなる。  俺の背中はすでにブロック塀にぶち当たってあとがない。  壁に片手をついて上から覗き込んでくるあいつは、俺より十センチぐらい高そうだ。その上、大人っぽく成長したあいつに無性に腹が立つ。  俺ひとり取り残されたようで、胸を切り裂かれたように痛む。

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