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第37話

#シロ ピピピピ アラームの音に重い瞼を開くと、目の前に半開きの瞳がオレを見つめてほほ笑んでいた。 「ふふ…勇吾。」 そう言って彼の頬を撫でると、勇吾はオレにキスをして言った。 「おはよう。シロ…」 ふふっ! 疲れた顔の彼は…少しだけ、いつもよりも、もっとセクシーに見える。 「はぁ…お風呂入りたい…」 ベッドに仰向けに寝転がると、自分の体からモモの香水の匂いがした… ムクリと体を起こすと、勇吾を見てため息を吐いて言った。 「勇吾の匂いになりたい…モモの匂いはきついんだ…」 「そうだね…俺もそう思ってた。」 彼はそう言うと、オレの手を引いてベッドから引き上げた。 「もうこの服はダメだ…モモの匂いに侵されてる!」 そう言って昨日から着たままの服を脱ぎ捨てると、勇吾と一緒にシャワーを浴びる。 「ねえ、勇吾…着ない服を貸してよ。」 彼を見てそう言うと、ぼんやりと半開きの瞳を見つめて吹き出して笑う。 「なぁんで、人の顔を見て笑うんだよ。全く…失礼しちゃうよ。」 半笑いしてそう言うと、勇吾はオレの頭を洗ってくれた。 だって…疲れた彼の顔が…とても可愛かったんだ。 …半開きの瞳が、トロンと…力なく、オレを見つめるから…可愛かったんだ。 「ふふっ!赤ちゃんみたいな顔をしていたから、可愛くって笑ったんだ。」 そう言って彼にキスすると、彼はオレの頭を流して言った。 「エッチしたくなった?」 あ~はっはっは! 本当に…勇吾は、朝から張り切る男だ。 「したくなった!」 オレは笑ってそう言うと、彼の胸に頬を付けて甘えた。 あぁ…勇吾だ。 やっと、彼に触れた気がする… イギリスに来て、怒涛の如く過ごした。 それはまさに“息つく暇もない”くらい…集中して過ごした。 あの時の為に…張り詰めていたんだ… はぁ… 「勇吾…疲れたね…」 彼の胸を撫でてそう言うと、勇吾はクスクス笑って言った。 「いやぁ…全然?」 ほんと…? オレはこんなにヘトヘトなのに… 首を傾げながら浴室を出ると、いつもの様に彼に体を拭いてもらう。彼が香水を付けるのを眺めると、すかさず首を伸ばして言った。 「付けて…?」 彼は手に余った分をオレの首に付けると、そのままうっとりと瞳を細めて、熱いキスをくれる。 あぁ…気持ち良いな… キスしながら彼の首に両手を滑らせて、頭を抱え込んで、勇吾の半開きの瞳を見つめて言った。 「…9時にホテルに行かないといけないんだ…」 「うん…」 彼はそう言うと、舌でオレの唇を舐めた。 うっとりと見つめて来る瞳が…赤ちゃんみたいに…トロンとトロけて、可愛い…! 「勇吾…可愛いね…」 そう言ってほほ笑むと、彼の唇に何度もキスをする。 どうしてだろう… 病気になって、弱っていたり…疲れて弱っている時って、とってもセクシーに見えちゃうんだよね… これってオレだけなのかな…? 散らかったリビングのソファに裸の勇吾を座らせると、彼に跨って言った。 「9時にホテルに着くには…何時にここを出れば良いの?」 「…さあねぇ」 とぼけた様にそう言うと、勇吾はオレの腰を撫でて引き寄せた。 さあね…? それじゃあ…だめだ! 「だぁめ!ちゃんと言って!じゃないと、時間配分が出来ないだろ?」 頬を膨らませてそう言うと、彼の胸を撫でて首にキスをする。 「あぁ…勇吾の匂いだ…」 彼の耳元でそう言うと、彼のモノと自分のモノを擦る様に腰を動かしながら、彼の頬を舐める。 惚けた顔が…可愛い…! 「言って!」 そう言って彼のモノと自分のモノを一緒に扱くと、あっという間に気持ち良くなって…腰が震えてくる。 「はぁはぁ…勇吾、ん…ねえ…気持ちいい?」 首を傾げながら彼に聞くと、勇吾はうっとりと瞳を細めて言った。 「うん…気持ちいい…もっとして…」 可愛い!! 「うん…!」 オレはそう返事をすると、気持ち良くって出来そうにも無いのに、頑張って彼のモノと自分のモノを扱いて腰を震わせた… 「あっああ…勇吾、気持ちいね…あっああん…はぁはぁ…これ、ひとりじゃ…無理だなぁ…。だってぇ、んんっ!気持ちいんだもん…も、出来ない…」 トロけた顔で彼にそう言うと、勇吾はニヤニヤ笑って言った。 「はぁはぁ…可愛いから、もっとして…」 酷いな… オレはこんなに腰が震えて…小鹿の様になってるのに… 「ん~!はぁっ…あっ…あぁ…らめ…無理…!気持ちいの…勇吾がしてよぉ!」 そう言いながら、彼のモノと自分のモノを扱くと、自分のモノから溢れた液がグチュグチュとエッチな音を出して…彼のモノを濡らして行く… 「勇吾、勇吾、ダメ…意地悪しないで…。も、出来ない…!」 そう言って彼の上から退こうとすると、勇吾はオレの足を掴んで言った。 「それでイッてみてよ…だって、とっても可愛いんだ。見てたいの…」 酷いだろ…? オレの腰はガクガクして…酔っ払いの足みたいになってるって言うのにさ。 「うん…はぁはぁ…んっあっあぁ…!」 自分で扱いた快感と、オレの足を撫でる彼の手のひらに感じて…どんどん気持ち良くなって行く… 体が仰け反って…腰がゆるゆると動いていく。 「あっああ…ん、はぁはぁ…んんっ…気持ちい…」 彼を見下ろしてそう言うと、勇吾は頬を赤くして、オレの手の上から自分の手を当てて言った。 「じゃあ…イッて…?」 彼の手がオレの手を握りしめて、自分のモノとオレのモノを一緒に扱き始めた。 「あ~~!らめっ!イッちゃう!イッちやうの~~!」 緩くない快感が体中を巡って体をのけ反らせると、勇吾の手のひらがオレの背中を支えて抱き寄せた。 「…イッて良いって言ってるだろ?」 そう言いながらオレの首筋を舐めてキスすると、腰を強く抱き寄せて、手の中でいやらしい動きをさせてオレのモノを扱き続ける。 あぁ!堪んない! 彼の匂いが…堪らなく気分を興奮させて…もう、だめだぁ! 「んん~~!あっああん!!」 腰を激しく震わせると、彼の手によって…イカされた。 勇吾の肩に頬を乗せて彼の襟足を撫でながら言った。 「…勇吾、イッちゃった…」 「うん…そうだね…」 クスクス笑ってそう言うと、勇吾はオレをソファに寝転がせて言った。 「お口で…」 「して?」 股の間に顔を沈める彼を見てすぐにそう言うと、桜二みたいに彼をじっと見つめた。 不思議そうにオレを見ると、勇吾はニヤリと口端を上げて、舌を出してねっとりとオレのモノを下から舐めあげた。 「ひゃあん!」 変な声を出しソファに撃沈すると、彼のお口の中で気持ち良くしてもらう。 「あっああ…勇吾、気持ちい!はぁはぁ…良いの、良いのぉ!」 体を捩りながら興奮してそう言うと、勇吾の手のひらがオレの胸を撫でて、乳首を立たせる。 「あぁっ!らめぇ!ん、や、やぁっだ…!イッちやうからぁ!」 体を捩って抵抗しても、彼のお口も…指先も…オレを気持ち良くするのに熱心だった。 「はぁはぁ…だめだぁっ!イッちゃう!ん~~!はぁあっああん!」 彼の口の中でドクドクと精液を吐き出すと、惚けたまま天井を見上げて…シーリングファンの上の埃を見つめて言った。 「オレは…ハウスダストのアレルギーなんだ…くしゃみが止まらなくて…病院に行ったら、そう言われたぁ…」 オレがそう言うと、勇吾はオレの中に指を入れて言った。 「くしゃみ…?」 「ん…んっはぁはぁ…ん、あっ…んん、そう…くしゃみ…あっああっ…」 喘ぎながら話すオレをニヤニヤして見下ろすと、勇吾は唇の横にキスしながら指を増やした。 「はぁあん!あっああ…!勇吾、勇吾…!」 彼の背中を抱きしめて両手で撫でると、下半身の快感に首が伸びていく… 「あぁ…挿れたい…シロ、勇吾はシロに挿れたいよ…」 挿れたら良いじゃないか!! 彼の背中をナデナデして、頬に頬ずりすると、おねだりして言った。 「勇吾…勇吾の、おちんちん…シロに頂戴よ…」 それは最上級のぶりっ子顔…プラス、悩ましい声のセットだ!! 「ふふっ!ほんと…シロは可愛いね…堪らないよ。」 勇吾はそう言うと、オレの唇に舌を這わせて甘ったるいキスをしながら、腰を動かしてオレのモノと自分のモノを擦った。 なぁんでだ! なぁんで、挿れないんだ! 「あっ!だぁめぇ!なぁんで!ん、も~!」 彼の肩を叩きながら怒ると、勇吾はオレの両手を掴んでソファに押し付けた。 そのまま腰をユルユルと動かすと、オレに惚けた瞳を向けた。 「…シロ、気持ちいい?」 「…ん、気持ちい…でも、挿れたら、もっと気持ち良いの…」 彼の腰の動きに合わせて自分の腰を動かすと、息が荒くなっていく勇吾の首に指を這わせて撫でる。 彼はうっとりと瞳をトロけさせると、だらしなく開いた口で言った。 「…まだ、挿れないよ…だって、挿れたら終わっちゃうじゃないか…」 何を言ってるのかね!? 「ん~~!勇吾、勇吾の、ばぁかぁ!」 「ダメなの、終わっちゃうだろ?勇吾は早くないけど、挿れたら始まっちゃって…始まったら、終わっちゃうじゃないか…!」 彼はそんな難解な事を言うと、オレの体に項垂れて覆い被さった…。 「勇吾…終わるのが嫌だから、挿れてくれないの…?」 彼の背中を撫でながらそう尋ねると、勇吾はしくしく泣きながら言った… 「うん…」 9時に、ホテルに行かなくてはいけないんだ。 そうしないと、桜二が怒って面倒くさいし、飛行機にも遅れちゃう… でも、勇吾は…オレに挿入すると、始まって… 始まると、終わりが訪れて、別れの時が来ると思っているみたい… 馬鹿だよね? だって、時間は刻々と時を刻んでるんだ。 止めたいって思ったって…進み続けるもんなんだ。 可愛い勇吾の髪を撫でながら、彼の頑なな心にちょっとだけ波紋を起こしてみよう… 「勇吾…もう、7時になるね…」 「え…」 オレの胸に顔を埋めていた彼は、オレの言葉に顔を上げると、時計を見上げて言った。 「やばいじゃないか…」 だぁから、言ったんだ! 彼の髪を指を立てながら後ろに流してあげると、よそ見をする顔を自分に向かせてキスをした。 「勇吾…してよ。シロに…勇吾の愛を沢山頂戴よ…」 そんな吐息交じりの言葉を彼の頬に当てると、勇吾のモノを優しく握って扱いてあげる。 「はぁ…シロ、あっあぁ…」 そんなエッチな声…最高に可愛いじゃないか。 大好きだよ…勇吾。 彼のモノも、彼も、全部好き。 「勇吾…来て、来てよ…」 オレがそう言うと、彼が自分のモノをオレの中に埋めてだらしなく喘いだ… 「はぁ…あぁ、シロ…気持ちいい…」 もっと… もっとしてよ… 「勇吾、もっとして!」 彼の背中を掴んで自分に引き寄せると、彼の首に舌を這わせてもっと興奮させていく。 「はぁはぁ…!あっ…、シロ、ちょっと待って…!」 待たない! オレは十分待った。 イギリスに来て、勇吾を見ても、セックスしないで2日間…ずっとポールダンスの事ばかり考えていたんだからっ! 「嫌だ!待たない!お前が欲しいんだ!!」 オレがそう言うと、彼は瞳を潤ませて熱いキスをくれる。 止まる事の無い、愛がたっぷりこもった…キスだ! 口端から漏れるこもる様な息と、熱くなる体を合わせて、グングン登りつめてくる快感に頭が真っ白になっていく… 「はぁあん!勇吾!…勇吾!イッちゃう…!」 キスを外してそう言うと、彼は苦悶の表情を浮かべて言った。 「イッて…イッてよ…シロ。勇吾で…気持ち良くなってよ…勇吾で、沢山イッてよ…愛してるんだ。シロ…愛してる…!」 …あぁ!堪らない! 彼の背中に爪を立てると、腰を振るわせて…イッてしまった。 「ああっああん!!」 だらしなく喘いだ口端からよだれが垂れると、オレの中で勇吾のモノがドクンと波打った。 耐える様に苦悶の表情を浮かべながら腰を動かすと、勇吾は堰を切った様に息を荒くして小さく呻き声をあげた。 「あぁ~…」 オレの中でドクドクと精液を吐き出しながら項垂れてくる彼の背中を抱き寄せると、彼の髪に顔を埋めて何度もキスをする。 「勇吾…愛してる…勇吾、愛してる…!」 両手で抱きしめるだけじゃ足りなくて、両足で彼にしがみ付いた。 「ふっふふ…」 オレの胸の上で吹き出して笑う彼の頭を抱きしめたまま…ぼやける視界を下唇を噛み締めて…堪える。 「またすぐに…会いに来るよ?」 シャワーでお尻を綺麗にして貰いながら彼にそう言うと、勇吾はクスクス笑って言った。 「うん…そうだね…」 そうだよ。 …本当の事だもん。 モモの匂いが付いた自分の服を諦めて勇吾の服を貸してもらうと、微妙なオーバーサイズ感は、やけに自分の体をちんけに見せた。 「やだ…この服、やだぁ…」 そう言って脱ぎ捨てると、違う服を着てみる。 「なぁんか…胸の所が開き過ぎてる。シャツはやだぁ…」 そう言ってシャツを脱ぐと、勇吾が来ているトレーナーを脱がせて着た。 「これなら良い。勇吾の匂いもするし。勇吾が着ていたし。」 納得してそう言うと、勇吾は肩をすくめて、オレが脱ぎ捨てたシャツを着て腕をまくった。 「勇吾?左手、見せて?」 そう言って差し出された彼の左手を手のひらに乗せると、自分と同じ場所に嵌められた指輪を指先で撫でた。 「シロ、左手見せて?」 勇吾がそう言うから、オレは胸を張って左手を差し出した。 「はい、どうぞ?」 オレがそう言うと、彼はクスクス笑いながら指輪を撫でてオレにキスした。 ふふっ! 「そろそろ、行こうか…」 そう言って手を握る彼に連れられて、彼の車、ハマーに乗った。 「ヨイショ…」 お尻を押してもらって乗り込むと、運転席の彼に言った。 「ね、これでみんなを空港まで送ってよ。」 「オーケー。ダーリン…」 桜二と依冬ににも、この凄い車を見せてあげよう。 ふふっ! きっとビックリするに違いない! ホテルに到着すると、桜二と依冬が既に待っていた。 「お~い!この車で送って貰おう?」 助手席からふたりにそう言うと、桜二がムッと頬を膨らませて言った。 「なんか、嫌だな…」 なぁんで? トランクに桜二の大きなスーツケースと、依冬のスーツケースを入れると、後部座席に大きな2人を乗せた。 「凄い!収容量だ!」 オレがそう言ってはしゃぐと、依冬が言った。 「空港まで乗って来た俺のベンツもこの位乗っただろ?」 …確かにそうだ。 後部座席の桜二の鼻を突いて笑って言った。 「桜二~!ムスくれて可愛い!」 「桜ちゃんは俺たち夫婦の車に乗せてもらうのが、嫌だったんだよ~。」 勇吾がケラケラ笑ってそう言うから、オレは目を丸くして桜二に言った。 「本当?」 「違うよ。馬鹿だな。そんな訳がない。自意識過剰なんだよ。」 やけに多くを話す彼に驚くと、大人しく助手席に座り直した。 「シロ…」 そう言って勇吾が差し出すUSBケーブルを受け取ると、自分の携帯に差して音楽を流した。 「ふふっ!良いね。」 彼がそう言ってご機嫌になったナンバーは…ブラッド・スウェット&ティアーズの“Spinning Wheel”をスカ風にアレンジした物。 「…なんか、暗いから、もっと明るいやつを流してよ。」 「はぁ?!」 依冬がオレの選曲に注文を付けて来た…。 ムカつくね? 「良いよ?ちょっと待っててね?」 オレはそう言うと、口を尖らせて選曲する。 「は~はっはっは!!」 車内が爆笑した理由…それはオレが流した音楽だ。 「なぁんで神田川なんて流すんだよ!しみったれるだろっ!もっと、良いのを流してよ…」 桜二だけしみじみ聞いていた“神田川”は、勇吾によってダメ出しされた。 「…湯冷めする歌なの?」 依冬が面白い事を言った!! オレは堪らずグフグフ笑うと、依冬に言った。 「んふっ!ぐふっ!違うよ…優しさが怖いって…歌だよ…。」 「どうして優しさが怖いのさ…」 食い下がって聞いて来る可愛い依冬に、ケラケラ笑うと運転席の勇吾が言った。 「サイコパスの優しさなんだよ…」 嘘つきの悪い大人だ… 「え…」 依冬はそう言うと、じっと曲の歌詞に耳を澄ませ始めた… ウケる。 「ふ~んふんふ~ん…」 オレの真後ろから、桜二のええ声の鼻歌が聞こえて来て…これまた、ウケる! 「ジワる…」 ポツリとそう言うと、勇吾と顔を見合わせてケラケラ笑った。 「…行ってらっしゃい、シロ。愛してるよ…」 「うん…行ってきます…」 空港の前に車を停めると、勇吾に抱き付いて、彼の瞳を見つめてそう言った。 彼の優しい唇からキスを貰うと、にっこりと笑って手を振る。 そんなオレを見ると、勇吾は運転席に乗り込んで手を振って車を出した… 良いんだ。 すぐに…また、会える。 彼の車が見えなくなるまで目で追うと、深呼吸をして振り返って言った。 「さあ!家に帰ろう!」 桜二と依冬と3人で…再び飛行機に乗るんだ。 オレにとっては怒涛の弾丸ツアーは、桜二と依冬にとっては楽しい一人旅になったそうだ。 オレの居ない間…ふたりで過ごすのも嫌だからと、それぞれ好きな所に出かけて、それなりに楽しんでいた様だ。 「シロにお土産買ったよ。」 桜二はそう言うと、オレの手首を掴んで切れてしまったブレスレットを外した。 そして、新しい革のブレスレットをクルリと巻いて、プレゼントしてくれた。 「…これ、切れちゃったの?」 古いブレスレットの結び目を、指で撫でて桜二が尋ねた。 「うん…この前、切れて、結んで使ってた。」 クスクス笑ってそう言うと、二重じゃなくなった革のブレスレットを掲げて言った。 「桜二、ありがとう。また、切れたら買ってね?」 「…はいよ。」 前のより蹄鉄の部分が重厚で、ゴシックになったブレスレット。 素敵じゃないか! これは…オレのお守り。 兄ちゃんのトラウマを抑えるものじゃない、興奮してさざ波が立った心を沈める為でもない… 不器用なオレが“オレはひとりじゃない”って…思い出す為の、お守りなんだ。 「俺はシロに可愛い服を買ってあげたよ。帰ったら見せてあげるね?絶対気に入ると思うよ?なかなかお目にかかれない、だっさい猫が描いてあるやつなんだ。あふふ!」 依冬はそう言うと、ニコニコ笑ってオレを抱きしめて言った。 「お仕事、お疲れ様…」 ふふっ… 今回も…オレはロンドン観光なんて、出来なかった。 でも、次に来た時は…絶対にストーンヘンジに行くって…決めてる。 既にケインを予約してるんだ。 バイク乗りの彼の後ろに乗って…イギリスの永遠に続きそうな緑の丘を越えるのも…悪くないね? ねえ? 運命なんて…いつ、どこで、何があるのか…分からないって…思い知ったよ。 兄ちゃんを失ったあの時の苦しみも、悲しみも、今思えば…全部、無駄じゃなかった… あのまま、死ななくて…良かった。 あのまま、狂って行かなくて…良かった。 今なら、そう思えるんだ。 それはオレが成長したって事なのかな…?それとも、 兄ちゃんを手放す事が、出来たって事なのかな…? 「シロ…お土産を見に行こう…?おいで。」 そう言って差し出された桜二の手のひらを、じっと見つめる。 これは…兄ちゃんの手じゃない。 …桜二の手。 オレは…彼の手が大好きだよ。 だって…触れるし、優しくて、あったかいんだ… 「…うん」 そう言ってほほ笑むと、桜二の手を握って彼と一緒に歩いた。 もう、兄ちゃんに縋らないよ… 兄ちゃんを偲んで…愛し続けるんだ。 オレが死ぬ、その時まで…それは変わらない。 たった一人の、愛しいあの人を偲んで…生きていくんだ。

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