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第七章・7

「な、希。これはどうだろう」  メモには『一希』と書かれている。 「私と希の名前から、漢字を一字ずつ取って『かずき』。良くない?」 「ちょっと待ってくださいね」  希は椅子に掛けると、タブレットを操作した。 「姓名判断だと、外格が凶です……」 「ダメかぁ~」  肩を落とす一志に、希はにっこり微笑んだ。 「予定日まで、まだまだあります。ゆっくりじっくり、考えましょう」 「そうだな」  薬指の婚約指輪は、結婚指輪に変わっている。  お揃いの指輪をはめた二人の手は、少し目立ってきた希のお腹の上で重なった。  ほら、急いで! 列車が来る。  もうレールの音が聞こえているよ。  皆! A列車が到着した!  早く乗って! 「乗り遅れなくて、良かったなぁ」 「何の話ですか?」 「今の幸せは全部、希のおかげだ、って話だよ」  希の髪に、一志はキスをした。  本田の目を盗んで、唇にキスをした。  心から愛する人へ贈る、キスだった。

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