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※ネタバレ全開。生贄学園全シリーズを終えて思うことなど諸々

私生活の理由で秋に始まり秋に終わることになってしまいましたが、なんというか今となってはそこも鷲尾らしいと思うのでした。 HP時代の初代「生贄学園」から8年越しの連載でした。なんたる……何度も筆を折りそうになりましたが、明確なプロットがある以上は、とまずは完結できたことに安堵しています。 鷲尾が主人公を務めた、シリーズとしては「贄学3」にあたります。ただ、今回の舞台は学園ではないのでタイトルは変えました。 「デストルドー」は著名な精神科医、フロイトの言う「死へ向かう欲動」という意味のようです。 そして、黄昏は最終回を考えた時にパッと浮かんだ風景だったので採用となりました。 このお話の鷲尾を噛み砕くなら、とんでもない迷惑死に急ぎ野郎。 鷲尾主人公なお話はずっと書きたかったものです。今とは全く違いますが上記のプロットはあったので想悟よりは少し楽でした。 普通の家庭で育った少年が、ある事情でクラブを知り、浸っていく。 混乱の極みに達して喜怒哀楽を前面に出していた想悟とは真逆、しかし常に無感情であった神嶽とも違う、実にあっけらかんとした男です。 その言動が並の人間では共感しにくいものであるのは、彼がいわゆる反社会性人格障害……近年はもう浸透している広意義で言う「サイコパス」を意識しています。 それを印象付けたくて、これでもかと鷲尾の心理表現を書いていますが楽しくてたまらなかったですね。 前作で想悟が苦悩していたのに対し、鷲尾は何でもサラッと決めて行動に移せる性質。 また、想悟が見たものとも違うクラブ像を書きたかったというのもありました。 夜はクラブスタッフであるけど、表はしっかりサラリーマンとして仕事をして社会に溶け込んで生きています。 鷲尾の周りは故意か偶然か、死が多いです。それも彼の思想にデストルドーがあるから?ここではまだわかりませんね。 鷲尾編は、前シリーズと違い各ルートはなく時間軸は全て同一。ですから本編中に歳をとることもありました。 初めは単純に復讐モノでしたが、「鷲尾が安易な復讐(執着)するだろうか」と考え、より邪悪な方面に進みました。それが篠宮家との関係です。 互いをけん制し合う元クラブ会員の父・篠宮輝明、鷲尾を親友だと思っている能天気な息子・晃、その晃の才色兼備な妻・美鈴。 特に晃だけならともかく、夫婦の間にまで入り込んでいく鷲尾は、BLとしてはアレですが、ものすごく変態っぽくて興奮しました。 みんなが知らないところでどれだけ人の大切なものを奪っていくんだ、こいつは!書きながら怒りさえ覚えていました。 そうは言っても、最終回「ああなるんだ楽しみにしておけ」なんて決まっていましたから、まあまあ、ね。 と、メインを先に紹介しましたが一番初めに登場する、「犬枠」な美波薫雄。 すごく快活で童顔ですが、管轄署の強行犯係でもかなりの検挙率を誇る立派な刑事さんです。 自分も家族が失踪しているからこそ警察官を目指したが、鷲尾の事件を聞いて人として同情するうち、鷲尾には恋心……のようなもの……(彼の中で断定はできない)を抱いてしまいます。これが彼には仇になってしまう訳ですね。 さらに彼ら、特に美波にとっては信じがたい真実も隠されています。 その件を「忘れていた」なんて鷲尾は本当に命を軽んじていますね。 最期は現行法だとインパクトがないのでさらに過激な方法、と選んでアレになりました。 あのエピソードばかりは鷲尾が憎くてたまらなかったです。というか検索履歴が大変なことになるのでやめてくれよ……。 ちなみに、サイト名でもある「月下香」は本編に登場させてナンボと思っていたのでそこは満足してます。 真鍋貴久。受けの歳が結構上がり44歳と、若い鷲尾が太刀打ちできるのかといったような元ヤクザの記者として立ちはだかります。 しかし、実際に話してみると鷲尾は「自分の方が優っている」とすら思い、真鍋の若衆時代にヘマをした過去も明らかになってきます。 黒瀧組に喧嘩を売っておいて並の人生が送れるはずがありません。彼には生き地獄として「スカトロ(ゲテモノ)枠」になっていただきました。 いわゆる家庭に恵まれなかったヤンキーが大人になっただけ、のような人間を目指しました。彼も何かが違えばもっと別の人生があったでしょうに、という……。 真鍋はそれこそ鷲尾の本性を知ってからは口調も荒くなり、ガタイもいい、正に自身が同性の性対象になるとは思ってもいないタイプなので、書いていて楽しかったですね。 彼自体が性犯罪者なので、他キャラに比べるとあんまり心痛まなかったかな。(そう言うと語弊ある) 美波とのやり取りはコミカルだったので、少なくて惜しかった。短編とかで書きたいもんです。 など、障害になる二人はいましたが、鷲尾にとっては晃、ひいては篠宮家が目標です。 晃はとても優しく(時にウザく)、実に社交的で、鷲尾も彼だけは珍しいタイプの人間だと感じていました。 が、それでは何も変わりません。晃を脅迫し、凌辱し、離婚届にサインするよう迫りました。 その一方で、妻の美鈴にも晃が浮気していると濡れ衣を着せ、精神的に追い詰め、彼女にもサインさせることに成功しました。 その後、晃の子を妊娠していた美鈴は娘を出産。奇しくも晃の代わりに篠宮家に入り浸るようになった鷲尾を「パパ」と呼ぶようになった晃の娘。もちろん、鷲尾は彼女らも奴隷としか見ていません。 ほとんど死んだような状態でクラブに監禁されていた晃も、本来なら自分がいたはずの場所に鷲尾が成り代わっていること、鷲尾が愛娘すら人間として見ていないことには、さすがに涙を流しました。 肝心の篠宮社長は、まるで晃が死んだかのような編集をされた映像を見せられた絶望から廃人と化し、一族も社会的・実質的に抹殺されるのを待つのみ……そんな地獄のような末路が垣間見えるのが、鷲尾が篠宮家にしたことでした。 美鈴が尻軽には見えないと良いなぁとは思いますが、思われてもまあ仕方ない。産前産後にあんなことがあっては……全部鷲尾とホルモンバランスが悪いんですよ。 蓮見と柳にも、幼なじみのようではあるけど、別に友情なんて感じたことはない、とあくまで冷静でした。 彼らの最期は、非常に呆気なく、また必死の命乞いを聞くはずもなく。 鷲尾は義理や人情などに流されない極道より冷酷な男でした。そこで、「ああ、鷲尾はやっぱり……こんな男なんだ」と作者としても裏切られた気分というか、残念で仕方ないというか……そりゃ、蓮見も柳にも愛着はありましたから。 二人を殺害した鷲尾がやって来たのは、両親の墓前でした。 鷲尾の最後の賭け。彼の願いは、神嶽にその身を食べてもらうことでした。 想悟の話で神嶽の真の力を知ってから、彼は神嶽の生贄となることで一生強い者の中で生きることができる、永遠の命が手に入る、そんな何とも愚かな思いを抱いてしまったのです。 それこそ奇跡か、神嶽と再会できた鷲尾は、まず蓮見と柳の死体を贄として渡し、ここ数年の話をしました。そして、どうか自分も、神嶽の一部にしてほしいとプライドも何もかも投げ打って懇願します。 ちなみに、タイトルはここの墓前で、神嶽の背中越しにもうすぐ陽が落ちる……そんな絵面でした。 「死への欲求を抑え切れない鷲尾」 「生に執着する者へ敬意すら感じているような神嶽」 二つの思想との対比。神嶽が麗華を、想悟を、八代(オーナー)をどう思っていたか。 ほんの少しだけど知ることができます。 翌日、鷲尾と思しき変死体が見つかったというニュースが流れます。 それはつまり、神嶽が鷲尾を噛み殺す程度で、食べなかったということ。 「死への欲求がある者は食わない」 とあるように、鷲尾全否定、食いもしない。ただの殺人。 残念ながら神嶽のお眼鏡には適わなかったようですね。 ちなみにずっとイメソンというか聴いていたのがReolさんの「サイサキ」だったのもあり、鷲尾、幸先悪いね(笑)という言葉遊び。 (主人公殺したくないとか言った奴誰だよ!)(鷲尾は殺さなきゃ駄目だと思った)(デスノート松田並感) 神嶽 is GOD. 鷲尾 is DEAD. 2で最終的にゆっくりと神嶽を待つことを決めた想悟からすると、ただひたすら馬鹿馬鹿しくて、しかし自分が神嶽の秘密を吐露したせいで寿命が縮まったかのもしれない……とまた少し悩まさせ、追い詰めるような奴です。そこら辺も計画していたのかはわかりませんがね。 想悟もこの時点ではもう一皮剥けているはずなので、それほど影響はないと思いますが、むしろ鷲尾がめちゃくちゃしてくれた後始末が面倒そうですね。 蓮見と柳の遺体は神嶽に食べられてしまったので一生見つからない、鷲尾も死んでいる、ということで皮肉にもこの件は鷲尾の両親と同じく迷宮入りになるでしょう。(想悟だけは読心などにより事の全貌が見えているかもしれませんが) 公に探すこともできないので、六代目はこれを機に引退だとか。彼に続いて隠居する高齢の会員も増えそうです。 しかしそれでも、クラブはまた新時代へ。 それにしても、鷲尾が死の間際に言った通り、やはり神嶽の次なるターゲットは想悟になります。けれど、いつやって来るかはわからない。神嶽が納得する力をつければ、の話ですから。 もしかすると、クラブを壊滅させられる救世主は神嶽であり、同時に元の地位に戻って不幸を振りまく悪魔も神嶽なのかもしれません。 でも、どうするのかは神嶽のみぞ知ること。 どこかで生きているのは確実だけど、どこでどんな姿で何をしているのかはわからない。 ただ、クラブは関係なく、人を食べ続けていることは確定事項です。やはりどうやっても犠牲が出ています。 ちなみに、2でも北欧神話に少し触れましたが、鷲尾がなぜかジャックなどの犬に好かれない、噛み殺される最期はまさにオーディン(鷲)を意識しています。自分も神と同じ土俵に立っているとでも思い込んだ精神異常者ってところです。 神嶽の「食べて宿す、繋ぐ」という継承の仕方も、なんだか今思うと某進撃する巨人方式になってしまった……と複雑なところ。(シリーズ全体構想、舞台背景が2011年程度なので、当時はそんな展開になるとは無論知りませんでした) でも食は三大欲求ですからね!という、こじ付け。 「なにをどう選んでも必ず犠牲が出る」「犠牲の上に物事は成り立っている」 そんなある種悲しくも現実的なテーマが生贄学園でした。 (中身は性癖詰め込んだフィクション極まりないけどね!!) 凌辱好きとしては楽しくも、ひたすらつらくて苦しくて切ない時を共に駆け抜けました。 以上、生贄学園シリーズ振り返りでした。思い出ぽろぽろ。

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