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第1話
オメガというと大体が小柄で可愛らしくて庇護欲をそそる見た目をしている。
俺が出会った何人かのオメガもそういう感じだったし、それがスタンダードなんだとは思う。
けれどそれだけじゃないことを、今の俺は知っている。
なぜなら俺、那月 朔也 の恋人が、まったくオメガらしくない「王子様」だからだ。
「那月さーん、ただいまー」
張りのある声が玄関から聞こえ、やってきたのは我が王子様。
俺の恋人は、天河 朝陽 という芸名みたいな名前をした爽やか好青年で、職業はキラキラアイドル。
本人は王子様キャラだなんていうけれど、俺からしたらキャラではない天然物だと思う。
高身長で整った顔、手足は長く頭は小さくスタイルがいい。しかも無理に節制しているわけではなく、食っても太らない体質らしいからなんともおいしそうに飯を食う。いつでも笑顔をキラキラ振りまいて楽しそうに仕事をしているアイドルの鑑だ。
正直その姿だけ見たら誰もがアルファだと思うだろうし、間違ったってオメガだと思う奴はいないと思う。俺もちょっとしたきっかけで知るまではアルファだと思っていた。
芸能界にはアルファが多く、朝陽が日頃仕事する現場にも当たり前のようにいる。だからこそ余計オメガということは不利な特徴であり、世間的には朝陽がオメガだということは隠されているんだ。
そういうわけで朝陽がオメガなのも秘密ならば、俺たちが付き合っているのも秘密。
それは朝陽の職業的な話でもあるし、俺の外聞の悪さが原因でもある。
見た目のせいか発言のせいか使いやすさのせいか、なにかと騒がれやすい俺は巷じゃスキャンダルミュージシャンだなんて呼ばれていて、とにかくネットニュースになりやすい。そして朝陽は恋人なんて存在はご法度のアイドルで。
だからこそ俺たちは今のところ秘密の恋人関係を続けている。
それでも事務所には報告済みな辺り、朝陽の性格が見えると思う。
「おかえり、朝陽」
「ただいまー」
ちなみにただいまとは言ってもここは彼の家ではなく俺の家。彼の家は一つ上の階だ。
最近朝陽が家の上に引っ越してきたことでこそこそ会う必要がなくなり、大抵どちらかの家で過ごすようになった。だから最近は相手の家に当たり前のように帰ってくる。
「お、どうしたんだよそれ」
「撮影で使ったのもらいました」
そして今日家に帰ってきた朝陽は両手いっぱいにバラの花束を抱えていた。なんというゴージャスな非現実感。それでいて似合うのがすごい。
こういうものを持っていると、改めて本当に王子にしか見えない。
「お風呂に入れてもいいって」
言われて、瞬時に薔薇風呂と朝陽のイメージが浮かぶ。実際やるのならうちの風呂じゃ物足りない。
「やるならいいホテルとってやるよ」
「片付けが大変だからやりませんよ」
「やったことあんの?」
「撮影で一回」
言いながら前に花をもらった時に買った花瓶を見つけて持ってくると、朝陽がそのまま花束を刺した。花束の大きさに比べて花瓶が若干貧相な気がするけれど、まあ後で朝陽の部屋に運び直せばいいか。
それに薔薇風呂は薔薇風呂で絶対似合うだろうから、今度ちゃんと用意しようと頭の中のメモ帳に書き込んでおく。
「あとこれ、差し入れでもらったんで一緒に食べましょう」
しかも花束が消えた手に持っていたのは可愛らしいケーキの箱。
これを意識してやっていないのだから、なんたるサプライズ能力だと思う。
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