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第7話

   プリンスちゃんの躍進は、飼い主のみならず、竜達の心にもさざなみどころか大津波を起こした。  そして、始祖竜の第一世代達は、ハングリーストライキを起こしていた。  そう、始祖竜達は気づいてしまったのだ。あえて進化しない餌を寄越されていると。  餌を! 格好良くなれる餌をよこすのだ!  いつも竜を眺めてぼんやりしていたから、その気持ちは痛いほどにわかった。  涙ながらに抗議されて、私は主催者たるルイに相談した。 「あー。じゃあ、救済措置はなしにする?」 「救済措置とは?」 「進化って大きな木みたいなものでさ。短く細い枝に入っちゃった場合、どうしようもないんだ。その時はまた根本からやり直せる、つまり、進化してない子から育て直せば、また太い枝を目指して頑張れるってこと。本来、君にはそれを頼もうと思ってたんだ」 「なるほど」 「君が決めていいよ。ただ、救済措置なしなら、告知と追加の卵の配布はしておいた方がいいね」  始祖竜達は、べったりと地面に伏せて懇願した。 「もう、成長してしまっているから、あまり進化できないかもしれないぞ?」 「キュー!」 「キュキュ―!」  そうなると、私にはとても駄目だと言えなかった。 「そうか。じゃあ、ミレアスにも相談しないとな」  ちなみに、ミレアスは少年騎士団に指導に行っている。  ミレアスに相談したら、快諾されたので、追加の卵の配布会の告知をルイにお願いした。  最後に卵を生んでもらい、それをルイに保管してもらう。 「けど、始祖竜達に食べさせる餌はどうするつもりだい?」 「これでも、伝手はあるのでな」  私とミレアスは笑う。  そして、黒狼騎士団と魔法騎士団と少年騎士団と竜騎士団の面々が竜牧場にやってきた。 「皆、悪いね」 「元隊長のお願いですからね」 「ありがとう」 「ランドルフ様の望みは断れませんよ」  ということで、黒狼騎士団が魔物の死骸を種類ごとに積み上げる。  魔法騎士団が属性ごとに魔石を積み上げた。  始祖竜と、少年騎士団に連れてこられた去勢されし始祖竜達は歓声を上げる。    竜騎士団の皆さんは見学もとい記録係である。仲間はずれは嫌だとのことだった。  竜達は必死に食べた。  一ヶ月くらいそんな日々が続いた。  なお、どこの国も竜育成に血道を上げているので、ここ数年、世界から戦争はなくなっていた。平和な世界である。  そして、合わない偏食で体を壊したりと紆余曲折がありつつも、ついに!    各々、ちょっぴり進化したのである!  歓喜する竜達。もう豚竜なんて言わせない! と誇らしげな竜達。  私は子豚のようなまるまっこいあの姿も好きだったのだが、当竜が嫌がっていたのだから言うまい。  竜騎士団が記してこっそり自分だけの懐に入れた、「どの餌でどう進化するリスト」は自国を含む各国の隠密に狙われる事となるのだが、とにかく始祖竜達は瞳の輝きを取り戻したのだった。  なお、ミレアスとアートはご飯の魔石を作る係となった。  大黒柱の宿命である。私も魔物をねだられるようになった。ソルを連れて狩りする日々である。  ラックはお留守番で竜の面倒をよく見てくれる。  三人とも、このまま育ってくれればいいのだが。    なお、プリンスちゃんの心を射止めたのは私の竜、アクアだった。青い優しい目からそう名付けたのだが、プリンスちゃんに一目惚れしていたらしく、必死で水系統の魔石を食べていた。ミレアスの氷属性の魔石のプレゼント込みでぎりぎり認めてもらい、種付けを許したプリンスちゃん。  自ら氷と水属性の魔石で卵を埋め、芸術神の加護を訴えて卵に加護してもらい、すっかり教育ママである。頑として魔石と美しいもの(判断するのはプリンスちゃん)しか食べさせないらしい。  なお、一匹だけ貰った小さな子竜には、アクアは空を飛ぶ魔物ばかり食べさせている。あと水の魔石。  アクアはアクアで、竜騎士団へのあこがれが捨てきれないようだった。  悲喜交交で面白いと思うと同時に、とても自分の育成方針を打ち出す気になれない。  なぜなら、竜当人が明確な目標を建てて努力しているのだ。応援しかできないではないか。    なお、竜騎士団の竜達がより良い餌を求めてハングリーストライキを起こしたと知らせを受けたのは一ヶ月後のことだった。  誰だって幸せになりたいのである。

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