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⑤
「お前さ‥‥」
呼び掛けられて顔を上げれば、ジッと俺を見てくる視線とかち合う
笑ってもない
怒ってもない
無表情の顔をした猿が一歩、足を踏み出した
「手ぇ出すって‥‥」
言葉を紡ぎながら、また一歩と距離を詰められる
なまじ体がデカい分、近くと迫力がハンパない
だから
縮まった距離を引き離そうと後ろに下がれば
「とと、ぁああのよ‥」
不本意ながら猿倉との間隔を開けようとしてただけなのに
結果、追い詰められていた俺の背中には壁
いつの間にか目の前にいる猿倉の右手が
スッと上がるのを見た
(ヤバい、殴られるッ!)
反射的に、目をギュッとつぶれば
「こういう事だろ?」
耳に届いた低い声
頬を滑るように伝う手のひら
そして、唇に柔らかいものが触れ
息苦しさ、と一緒に
熱い吐息が降り懸かる
「‥‥‥‥」
「‥‥い、おい犬?って、お前もしかしてキス、初めてとか?」
え?
「おい犬井?」
「ッ、ツ!!!!!」
俺を覗くように見て来た猿倉の顔を目に捉えた瞬間
何が起こったかを理解した
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