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「お前さ‥‥」 呼び掛けられて顔を上げれば、ジッと俺を見てくる視線とかち合う 笑ってもない 怒ってもない 無表情の顔をした猿が一歩、足を踏み出した 「手ぇ出すって‥‥」 言葉を紡ぎながら、また一歩と距離を詰められる なまじ体がデカい分、近くと迫力がハンパない だから 縮まった距離を引き離そうと後ろに下がれば 「とと、ぁああのよ‥」 不本意ながら猿倉との間隔を開けようとしてただけなのに 結果、追い詰められていた俺の背中には壁 いつの間にか目の前にいる猿倉の右手が スッと上がるのを見た (ヤバい、殴られるッ!) 反射的に、目をギュッとつぶれば 「こういう事だろ?」 耳に届いた低い声 頬を滑るように伝う手のひら そして、唇に柔らかいものが触れ 息苦しさ、と一緒に 熱い吐息が降り懸かる 「‥‥‥‥」 「‥‥い、おい犬?って、お前もしかしてキス、初めてとか?」 え? 「おい犬井?」 「ッ、ツ!!!!!」 俺を覗くように見て来た猿倉の顔を目に捉えた瞬間 何が起こったかを理解した

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