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『ゆらぎの性』α女性とΩ男性
ベッドの中にひょろりとした身体を横たわらせて惰眠を貪る。昨夜はたまりに溜まった性欲を発散させて、もう出るものもない程スッキリしているが、朝方まで続いた行為のおかげで、とにかくもう少し眠りたい。
隣に眠っているはずの男はいず、隣の部屋からカチャカチャという食器の音と、テレビのワイドショーの声が聞こえる。
『さて次は、『ゆらぎの性』と言われるα女性、Ω男性についての特集です』
取り澄ましたアナウンサーの声に『ああ、僕の事ですね』と男性Ωの僕は声に出さずに答える。
α、Ωは珍しいけれど、その中でもとりわけα女性、Ω男性というのは珍しい。だからか、面白半分にこういったワイドショーに取り上げられることは多かった。
──まぁ、それで理解して貰える事が増えるなら良いのだけど。
夢現でアナウンサーに答えて、テレビの音を聞いた。
一般的なβに比べ、αとΩは人口の1パーセント未満。約100~200人に一人いると言われています。その中でも今回注目するのは、一次性である女性と二次性のαを同時に持つ、α女性。それから、一次性に男性、二次性にΩを持つΩ男性についてです。
このα女性、Ω男性は、いわゆる「ゆらぎの性」と呼ばれています。
何故『ゆらぎの性』なのか。そしてゆらぎの性として生まれると、何が違うのかについてお話します。
いわゆるこの『ゆらぎの性』であるα女性、Ω男性というのは、非常に少ないです。そもそも、α、Ωも100人に1人と言われていますが、α女性、Ω男性に限ってはその中でも1割、α男性、Ω女性9人に対し、α女性、Ω男性は1人と言われています。人口1000人に対して1人ということですね。
α、Ωはベータからの特別変異体であることが知られています。実は、身体的にα女性、Ω男性というのは、α男性、Ω女性並みの人数いるのではないかと、最近の研究でわかってきました。
ただ、身体的な特徴としてα、Ωであったとしても、α女性、Ω男性の場合はすぐにα、Ωとしての特徴は出ません。
なぜかと言うと、α女性で説明しますと、女性ホルモンがαのホルモンを抑制するからです。二次性のαとしての性の成長より一次性の女性の成長が勝ってしまうんですね。この一次性のαホルモンが勝った場合にだけα女性として初めて機能するわけです。
けれど、これがまた非常に厄介で、Ω女性、β女性を伴侶とした場合は問題なくαとして「妊娠させる」ことができます。
しかし、α男性、β男性を伴侶とすると一次性である女性ホルモンが活発化し、αとしての「妊娠させる」能力が弱くなります。一般的には無くなる、もしくは体調に不調をきたして薬で女性ホルモンを補い、二次性の妊娠させる能力を失わせ、一次性の女性、つまり「妊娠する」ようになります。
そして、Ω男性を伴侶とする場合。この場合は番契約を結ぶと「妊娠させる」能力、番契約を結ばない場合は投薬によって「妊娠する」能力を選択する事になります。
つまり、伴侶がΩ女性、β女性の場合は「妊娠させる」、α男性、β男性の場合は投薬などによって「妊娠する」、Ω男性の場合は「妊娠させる」「妊娠する」どちらかを選ぶことになります。
これがΩ男性の場合は、伴侶がα男性、β男性の場合は「妊娠する」、β女性、Ω女性の場合は「妊娠させる」、α女性の場合は「妊娠する」「妊娠させる」のどちらかになります。
どちらの性も、妊娠する・妊娠させるを選ぶ必要があるので『ゆらぎの性』と言われています。
一通りの、説明が終わる。特別耳に新しい事もなければ、頼りになる情報もなさそうだ。
『Ω男性で、妊娠したい場合はどうすればいいんでしょうか?』答えなどないと解かってテレビに問いかける。
隣の部屋で朝食を食べているであろう恋人の事を考える。まだ番にしてもらってはいないけれど、約束はしている。
本能、それで一蹴されてしまえばそれまでなんだけども……、僕は、彼の子どもが欲しい。
「子ども、欲しいなー」
彼に聞かせるつもりで、わざと大きな声で呟いた。
【要点】-----------------------------------------------
●α、Ωは人口100人に対して1人未満。
そのうち、α女性・Ω男性に至っては1000人に1人未満。
潜在的なα女性・Ω男性はもっといるが、性ホルモンの影響で未発達な事が多い。
●出産可能なのは全ての女性(α女性、β女性、Ω女性)と、Ω男性。
●α女性、Ω男性は「妊娠する」「妊娠させる」のどちらかを選ぶ。
抑制剤の他に、投薬治療が必要な事もある。
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