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第33-2話そして無名に奪われる

「彼は間もなく死にます……命と引き換えに薬を飲み、私を守ろうとしてくれたんです。もうこれ以上は戦えません」 「同情を引くつもりか? そうはいくか」 「そんな惨めな手段は選びませんよ……陛下、今からお見苦しいことをさせて頂きます。どうか背を向けてはくれませんか?」 「待て、勝手に――」 「さあ約束通り、私と永遠を手にしなさい」  イメルドの制止を無視して、私は彼に命じる。  彼に躊躇はなかった。  勢いよく私を抱き締め、常人の域を超えた力を加え――鈍い音とともに激痛が走った。  彼が駆け出し、私を道連れに飛び降りる。  ああ……やっと望みが叶った。  遠のく意識の中で、私はいつになく安らぎを覚えていた。  私に名を奪われ、将来の道を奪われ、心を奪われ、命すら奪われる彼。  そんな彼に私のすべてを渡せる――幸せだった。  唇に熱く血生臭い吐息と、柔らかな感触が広がる。  もう何も返せない私は、与えられる彼の愛を受け止める。すべてが途切れる最期の時まで――。

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