105 / 106

第34-1話そして無名に奪われる

 本当はもう身動きが取れない体なのだろう。しかし彼の声を聞いた途端、「ガァァァ……ッ」と獣のような濁った唸り声を出しながら起き上がる。  小刻みに震える体。浅く荒い息。残り僅かな命を削っている気配に胸が痛む。  理性はあるのだろうか? 黒衣の外套のフードを被ったままの顔を覗き込めば、彼の目に光がないことに気づく。本能だけで動いているのかもしれない。  彼が起き上がるとは思っていなかったのか、イメルドが咄嗟に陛下の前へ立って身構える。 「まだ動けたか! 陛下、どうか私の後ろへ。あの男は薬であり得ない怪力を手にしています。私の隙を突いて陛下を襲うやも――」 「その必要はありませんよ、イメルド殿」  私は彼へ手を伸ばし、フードの下の頬を撫でる。汗なのか、それとも涙なのか。彼の頬は濡れていた。  いずれにしてもそれだけ彼は私を想い、足掻いてくれた。  もっと利己的ならば私から逃げ出し、生きていけただろうに。  私のせいで命を削り、終わらせることになってしまった彼が哀れでならない。そして愛おしくてたまらない。  自然と私の顔に笑みが浮かんだ。

ともだちにシェアしよう!