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第3話
光を含んだサラリと柔らかな純白の体毛を全身に纏ったその獣人。
綺麗なアーモンド型のつぶらな瞳は、黒く潤んでいて、スっと通った鼻先が高貴な印象を与えていた。
「…橘さん?どうかしました?」
黒いリップラインの口から紡がれる言葉は、上品なもので、獣人は心配そうに濃密な被毛に埋もれた小さな垂れ耳をピクリと動かし大和の顔を覗き込んできた。
「…ぁ、いや。その…犬属の種類が、何なのか気になっちゃって…。」
「ぁあ!その質問よくされるんですよ。
それにサモエドに間違えられる事も多いんですけど。
私はグレートピレニーズを祖に持つ獣人です。
白銀 幸 って言います。」
愉しそうに話す白銀さんは、部屋を案内しますねと、大和の大きなトランクを軽々と持ち家に入って行った。
後を追う大和は、白銀さんのフサフサと揺れるしっぽから頭の先まで視線を走らせた。
ゆうに2メートルは越えているであろう身長。
身に着けている服は、オーダーメイドでしか手に入らないと思うサイズのグレーのオーバーオールにサーモンピンクのロングカーディガン。
服の間から覗く毛と、歩く度にチラリと見える肉厚で大きな肉球。
あぁ…。大型犬の特徴があるな。
と大和は、そのずっしりと大きな存在に安心感に似た感情を抱いていた。
案内された家の中は、高い吹き抜けの天井。
その天井にある天窓から差し込む柔らかい日差し。
広々としたリビングダイニングには、大きな…大き過ぎるL字型のソファー。
目に付くもの全てが、大和にとっては規格外のサイズ感で、別世界に来たのではないかと錯覚を起こさせた。
リビングダイニングを囲むように配置された8個の扉。
その一つを白銀さんが開け中に招き入れた。
「ここが、橘さんの部屋になるからね。
先に荷物は運び入れといたから、後々ゆっくり荷解きしたらいいからね。」
「ありがとうございます。」
18畳を越えていると思う広々とした部屋には、備え付けだと言うテーブルやソファー。
初めて目にするキングサイズと思わしきベットに、ウォークインクローゼットに続く扉まであった。
「少し休んだら、共用スペースの説明をしたいからリビングに来てね。」
白銀さんが、部屋から出て行き、一人暮らししていた時よりも明らかに広い空間にポツンと残された大和は、既にホームシックに陥りそうだった。
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