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第2話

多くの獣人が行き来する住宅街の一角。 短髪の淡い茶髪に、色素の薄い琥珀色の瞳をしたやや甘めのフェイス。 170センチ程の人並みの身長にスラリと長い手足。 その整った出で立ちに見合わない程の大きなトランクを引き、とある一軒家の玄関先に橘 大和(たちばな やまと)は佇んでいた。 まるでおとぎ話の王子様が住んで居そうなお城のように大きな建物に、重厚感のある両開きの玄関扉。 外壁は白いレンガ調の造りで、敷地に植えられた草木の緑や色鮮やかな花々にとても良く映えていた。 大和は、聳え立つ家を見上げながら、 『今日からここで生活するのか。』と胸を弾ませていた。 ふた月前に、大和が5歳の頃から兄弟のように育ってきたゴールデンレトリバーの琥珀が、虹の橋を渡った。 大きな病気をする事なく寿命を全うした琥珀は、老衰し最後の一年は寝たきりで、食事も排泄も生活の全てに介護が必要だった。 大和の職場であるペットサロンにも寝たきりになってからも一緒に出勤し、片時も離れる事はなかった。 だけど…今。 大和の傍には、その大きな存在は居ない。 家に帰っても琥珀の息遣いは聴こえない。 仕事をしていても、ふとした時に目を向ける琥珀が寝ていたマットレスがあった場所にもその姿はない。 琥珀がいる生活が当たり前だった。 真夜中に少しの物音に目を覚まし、琥珀の排泄をしていた大和は、未だに僅かな物音で目を覚まし、琥珀が居ない事に気づき眠れぬまま朝を迎える事もあった。 大和も自覚はしていた。 これは完全な"ペットロス"だという事に。 ペットロスには、仔犬を迎えるのが良いとよく言うが。 年々穏やかになり、寄り添ってくれた琥珀の存在が大きく。 その反面やんちゃで遊び盛りの仔犬を迎える事に消極的になっていた。 そんな大和を見兼ねたオーナーの岸畑 太一(きしはた たいち)が、心機一転したらどうだと、知り合いが営んでいると言うシェアハウスを紹介してくれた。 今までは、一人と一匹という生活で。 琥珀を失ってからは、孤独な一人暮らしだった。 シェアハウスなら、仕事から帰っても一人という事はないだろうしと、オーナーのその提案に乗ったのだ。 いつ振りかの連休を貰った大和は、今日から始まる新生活の門を叩いた。 『はーい。ぁ、あ!今日ご入居の橘さんですか?』 明るい声がインターホン越しに響いた。 「はい。橘です。」 インターホンが切れると、パタパタと廊下を足早に歩くスリッパの音が聞こえて来て、玄関扉が開いた。 ふぁさーと白く艶やかな毛が見え、その直後に程よく湿った鼻先が現れた。 大きく開け放たれた玄関扉の前で、出迎えてくれた人物を前に大和の思考はトリップした。 (……獣人…。) 出迎えてくれた獣人は、見るからに犬属で、全身は被毛に覆われていた。

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