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第2話

「……ん……」 白に見える銀髪に狐耳の子どもはまぶたをひらいた。 近くで作業していた男魔女は起きた気配を感じて子どもの顔を覗き込んだ。 子どもは黒髪に濃い紫の目をもった少年が覗き込んでいてびっくりしたのだろう。 ぼんやりとした目が真ん丸に見開かれた。 見開いてみるとそのこげ茶色の目は男魔女の郷愁を刺激したが、男魔女はその思いを振り払った。 彼はこの辺の人は大体カラフルな目の色だったりするから珍しいかもしれないな、と頭を切り替えた。 「おきたか」 ぱちぱちと狐耳の少年は瞳をまたたかせる。 「森の外で血だらけで倒れていたものでな。どうじゃ、具合は」 うながされるように起き上がるとなにか違和感があった。 「……いたくない。……それに腕がある」 実は少年は逃げてる途中に捕まり腕を切り落とされ、そこからもがき逃げていたのである。そして、森の前で力つきて倒れていたというわけである。 「まあ、生やすことはお手の物だからな。魔女にとってはさほど手間でもないさ」 「……魔女?」 「ああ。そうさな、アヤメの魔女と呼ばれておる。数少ない男魔女というやつだ。アヤメとよぶがいい。 こんななりでもだいぶ年はくってるのさ」 「アヤメ……さん。男魔女……」 狐耳の少年はぼんやりと言われたことを繰り返した。 「少年はなんで追われていたんだ? この辺の村は排他的だからな、混血児がよくその年まで生きてるものだと不思議に思ってな」 まあ、だからこそ力のある男魔女の彼は滅多に村民から干渉されることはないのでここにすんでいるのだが。 「……母さんが、化かしてくれてたから」 と、ぽつりぽつりと少年はあらましを説明していった。 少年の母は人に化けることができる狐で。 昔、『穴』を通ってこの辺に迷い混んだらしい。 そこで少年の父と出会い子をなしたがまもなく父は病で亡くなり、母が混血でまだひとりで化けられない少年を普通の人間の少年に化かしてくれていたらしい。 その母も病で亡くなり、化けられなくなったところを見つかり袋叩きにされ村を追い出され逃げていたらしい。 「ふむ。『穴』か」 アヤメはその納得できる事情にうなずく。 この世界にはたまに歪みのように『穴』が出現する。 それは遠くと遠くを繋ぐこともあり、悲劇を生み出してしまうこともある。 まあ、大体遠くにいくくらいで世界を越えるほどの歪みはほとんどない。 少年は東方の狐の一族の特徴が出ていたので、おそらくそこから母親はきたのだろう。 「少年、名は?」 「ユキ」 「ユキ……か。ユキは母をふるさとに埋めてやりたいと思わぬか?」 ユキはこくりとうなずいた。 男魔女は乗り掛かった船だと。 ユキの母親の里にも心当たりがあるし、ちょうどアヤメも暇だったから。 ユキの母を墓からだしてやって連れていけばいいだろう。 ユキの母も自分の母を迫害した村にいたくないだろうしな。 ついでに少年を里に送ってやろう。 母親の里ならあたたかくむかえてくれるであろう。 「そうと決まればそなたの母を迎えにいかねばな」 そういって男魔女の少年は目の前の少年のいたわるように頭を撫でた。 少年はびくっとしたが、なんだか安心したような表情をするとやがて撫でやすいようにかあたまを少し傾けた。 突然迫害されるのは辛かっただろうと。 ひとりでいることを決めた男魔女と違って、少年はその村が居場所だったろうから。 男魔女は労りの意味を込めて滑り通りのよい銀髪ともふもふとした狐耳でおおわれた頭をしばらくなでていた。

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