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括り紮げる 2
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事の起こりは3週間前。
冬が終わりを告げて、春らしい温かい日が続き、桜の花が大きく膨(ふく)らみもうすぐ咲きそうという、3月の中旬だった。
オレはいつも通り仕事を終えて、スーパーに寄って食材を買い込み、緋音さんの住むマンションへ行った。
緋音さんが帰ってくるのを待ちつつ、夕飯作りと軽く掃除をこなす。
今日の夕飯は、昨日売っていた筍(たけのこ)をアク抜きしたのを使った、炊き込みご飯と、筍とふきのとうの煮物。
穂先(ほさき)の柔らかい部分はカットして天ぷらにして、姫皮(ひめかわ)の柔らかい部分は出汁(だし)とごま油と鷹の爪であえる。
緋音さんが筍が好きなので、この季節は筍を見つけたら、こうしてフルコースを作る。
特に今回は大きいのが手に入ったから、色々作れた。
オレはそんなに好きでもなかったのに、緋音さんに付き合っていたら、いつの間にか好きになっていた。
ビールは冷やしてあるし、今日は白ワインも用意しておいた。
緋音さんが何を要求しても応えられるように、常にお酒は数種類常備してある。
準備万端に整えて、今か今かと帰りを待つと、程なく玄関チャイムが鳴った。
ダイニングキッチンを抜けて廊下に出て、玄関へと小走りで向かう。いつものように覗(のぞ)き穴を覗き込んで、緋音さんの姿を確認すると鍵を外して扉を開けた。
「おかえりなさい!」
「・・・ただいま」
いつものやり取りをして、緋音さんは中に入ってくる。
今日は気温が上がって暖かくなったので、黒いトレンチコートに、ジーパン、黒いシャツ、靴は愛用の黒い革靴という出立(いでたち)だった。
緋音さんはいつもかけているサングラスを外して、肩から下げている本皮の黒いカバンにしまっている。
オレはドアを閉めてしっかりと鍵とチェーンをかけて、緋音さんを抱き締めるとドアに軽く押しつけて。
「ちょ・・なんだよ?」
いきなり抱き締められて、いきなりドアに押しつけられて、緋音さんが焦(あせ)って声を上げる。
少し高めの声が耳元で反響して、熱い息が耳を掠(かす)める。
それだけで欲情する。
オレの胸を軽く押し返す緋音さんの顎(あご)を捕らえると、抵抗する時間も与えずに口吻(くちづ)けた。
口唇を割って舌を吸い上げると、緋音さんの全身が慄(おのの)いて小さく震える。
緋音さんがおずおずと、オレの背中に腕を回して、オレの薄手のセーターを躊躇(ためら)いながら掴(つか)む。
深い口吻けをして、強く舌を吸い上げると、小さく体を震わせて、セーターを掴む手に力が入る。
オレを押し退(の)けるでもなく、嫌がるわけでもなく、縋(すが)りつくようにセーターを掴む白い細い手が、どうしようもなく愛おしい。
しばらくそうして何度も舌を吸い上げて、緋音さんの熱と唾液と柔らかさを堪能(たんのう)していたら、緋音さんが苦しそうに顔を背(そむ)けた。
「もう・・やめろっ・・・」
ぐい・・・っと胸を押されたので、オレは素直に舌と口唇を解放して、体を離した。
緋音さんは白い頬をほんのり赤く染めて、苦しそう呼吸を早く浅く繰り返す。少しだけ潤んだ薄茶の瞳がオレを睨(にら)みつけている。
何もかもが煽情的(せんじょうてき)で、嗜虐心(しんぎゃくしん)を刺激する。
組み敷いて押さえつけて犯したくなる。
無理やり内部(なか)に入って、お腹の一番奥まで突きまくって、声が枯(か)れるくらい喘(あえ)がせて、中も外もぐちゃぐちゃになるくらい、オレの欲望を注ぎ込みたい。
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