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ステージの上で…

ついに… ついにその瞬間がやってきた… 僕は幕の閉じたステージの上で、 他の3人のセッティングが終わるのを、 ドキドキしながら待っていた。 幕の外からは、ガヤガヤと話し声が聞こえてきて… そこそこお客さんがいるのが伝わってきた。 ああ…僕は、 みんなに受け入れてもらえるんだろうか… いや、それより… ちゃんと最後まで持ち堪えられるんだろうか… いつだって本番前の、この瞬間がいちばん緊張する。 それにしても、今回の緊張感は特別だった。 「準備大丈夫ですか?」 「はーい」 「じゃあ、BGMが大きくなって、止まったら幕が開きますので、よろしくお願いします」 そう言って、スタッフさんは去って行った。 シルクが僕の肩を叩いて言った 「大丈夫だよ、カオル」 「…」 サエゾウは…僕の頭を撫で… ニヤッと笑いながら、言った。 「ちゃんと勃たせてあげるからねー」 「…っ!」 そしてBGMの音量が上がり… フェイドアウトしていった… 同時に…幕が、ゆっくり開いていった… 予想以上の数の観客で埋まった景色が、 目の前に広がった。 ドクン…ドクン… 僕は自分の心臓が、大きく鳴るのを感じた… と、 ドコドコドコドコ… それを打ち消すように、カイのドラムが入ってきた! ああ…カイさんだ… そしてシルクのベースの重低音が、そこに重なった。 うん…シルクさんだ… そこへサエゾウの、あの気持ちいいギターの音が… まるで、そこら中にペンキをぶち撒けるかのような勢いで、飛び込んできた。 あああ…サエさん…気持ちいい… そして最後に… 僕はそこに、自分の声をかぶせた。 そこはもう…完全に異次元世界だった。 本番の音…PAさんのおかげもあり、 彼らの演奏の音の渦に、僕は全身を巻き込まれた。 そして、ただ、ただ… その曲の映像世界を彷徨うことに集中できた。 曲間のMCは、サエゾウとシルクが喋ってくれた。 「うちのボーカル…カオルー」 「…」 パチパチ…拍手が鳴った。 その間も僕は…立っているのが精一杯だった。 「ごめんねー無作法で」 「こいつ、歌ってる間、魂がどっかにすっ飛んでっちゃうんだよねー」 客席から笑い声が起こった。 「まー俺らの玩具なんだけどねー」 「みんなも可愛がってやってね」 上手いこと言うなーさすがだなー ボーッとした頭で、僕は思った。 そしてまた演奏が再開した。 それに反応して… まさに僕の魂はすっ飛んで転生していった。 その曲の歌詞の異世界の映像の中で 僕は…その物語の主人公になり続けていた… 最後の曲になった。 サエゾウの気持ちいいギターから始まるあの曲だ… ああ… やっぱりサエさんのギター気持ちいい… 僕の身体は…ビクビク震えた。 そして歌いながら… サエゾウのギターに愛撫され… シルクのベースとカイのドラムに 交互に挿れられている感覚に陥っていった… 観客は、そんな僕の姿を… どんな風に見ているんだろう… 残念ながら、僕にはそれを確かめる心の余裕が これっぽっちもなかった。 そして最後の曲を歌い終わると やはり僕は…そのままその場にガクンと膝をついた。 エンディングも終わり… 会場は、大きな拍手と声援に包まれた。 「サエー」 「シルクー」 「カーイー」 それぞれに声援が送られていた。 「カオルー」 あ、呼んでもらえたー たくさんの声援に混じって… 僕の名を、呼んでくれる人が…確かに、いた。 嬉しい… 僕の身体は、より一層震えた。 そして幕が…閉まるか閉まりきらないか…のうちに、 僕はその場にバタッと倒れた。 「あーやっぱりね…」 「終わったな…カオル…」 「あの2人に頼んどいて正解だったわー」 自分の機材を片付けながら、3人様が呟いた。 ほどなく、楽屋裏からステージの上に、 ハルトとショウヤが入ってきた。 そして僕の身体をおこし、両側から抱えた。 そのまま僕は、機材のように運び出された。 「お疲れ様でしたー」 「あれっ…大丈夫なんですか??」 楽屋で待機していた、最後のバンドのメンバーが 僕の様子を見て、声をかけてきた。 「あースイマセン、燃え尽きちゃったみたいですー」 ハルトがフォローしてくれた。 そして僕はそのまま、楽屋の床に寝かされた。 他の3人も、機材を抱えて撤収してきた。 「あーハルト、ショウヤ、悪いけどホント頼むね」 カイが言った。 「おっけー」 「ズルいなー俺もやりたいのになー」 「残念だけどね、しょうがない…」 「カオル…もし復活したら、来させて」 そう言い残して、 バタバタと、撤収した機材の整理もそこそこに、 彼らは出て行った。 LIVE直後の、ファンの子たちへの営業は、 それほどに大事なことなのだ。 最後のバンドのメンバーも、皆ステージに上がった。 楽屋には、ハルトとショウヤと… 絶頂寸前の、震えが止まらない僕とが残された。 ハルトがショウヤに言った。 「これ…処理しないと、いかんのよね?」

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