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2度めのLIVE(2)

1バンドめが終わり… 僕らの出番になった。 またも…緊張の瞬間が、近付いてきてしまった… セッティングを終えたカイが言った。 「まーいつも通り、楽しんでいきましょ」 サエゾウは、僕の耳元で囁いた。 「…俺のことも勃たせてね…」 「…っ!」 そして…幕が上がった… 逆光で、顔はよく分からないけど、 たくさんのお客さんがいた。 ドクン…ドクン… ドコドコドコドコ… そしてまた、僕の心臓の音を打ち消すように、 カイの激しいドラムが鳴り響いた。 ああ…カイさん… 僕の身体に、 あの野獣のような、激しいカイの抽挿が蘇った。 ベースの重低音が重なった。 ああ…シルクさんだ… 今度は、あの胸がキュンとなるような、 ラブラブな情交が蘇った。 そして、ギターのメロディーが入ってきた… ああ…サエさん… サエゾウの…あのいやらしい指使いが… 僕の胸元にゾワゾワと這い回ってくる気がした。 最後に、僕は歌った。 それはまさに、 あの…3人からの愛撫が、僕の身体の中に、 ぐるぐると快感の波を沸き上げる感覚だった。 「あああー」 彼らに愛撫されて、 曲の世界へすっ飛んでしまった僕の歌は… 歌なんだか喘ぎなんだか、 よく分からなくなってしまった… 「TALKING DOLLでーす」 数曲終わって…シルクが喋った。 パチパチパチパチ… 拍手と声援が飛んだ。 僕はもう既に…立っているのがやっとだった… 「今日もカオルちゃん…イっちゃってるなー」 僕の方を見て、サエゾウが冗談ぽく喋った。 客席から笑い声が聞こえた。 「カオルー」 あっ、声援も聞こえたーー 僕は必死で、ゆっくり顔を上げて…前を見た。 「カオルー」 「かわいいー」 そのときの僕は…笑顔なんか無く… 息を荒げて、目も血走っていて… とても…かわいいって感じじゃ無かったと思われるが それでも、嬉しかった。 「次はねー新曲2曲いくよ」 「なーんと、1曲めは、コイツの曲〜」 サエゾウが僕を指さした。 「もう1個もカイの曲に、コイツが歌乗せましたー」 客席は、期待でザワザワしていた… 「品定めしてやってね…」 また2人が、それなりに上手い事掛け合って… そして…ついに…例の新曲がやってきた。 カンカンカン…ド、ドン… カイとシルクが… 異常な一体感で、重低音の絨毯を敷いていく… その上に僕はポツンと1人で立ち…歌い始める… と、そこへサエゾウが、 その空間を、描くように埋めるように… メロディーで色彩をぶちまけていく… そして、全員の力を1つの光にした様な、 激しいサビの音が、観客を攻撃する。 ああ…あああ… 気持ち良過ぎる… こんなにも… この曲の世界観を表現してくれるメンバーが、 他にいるだろうか… 僕は、心の底から…死にそうに気持ち良かった… 静かに終わる、曲の最後で… 僕はその場に、ドサっと膝をついてしまった… パチパチパチパチ… 拍手が起こった… そして間髪を入れずに、カイの曲が始まった。 短いイントロの間に… 僕は必死で手を前につき… ステージと客席の間にある手すりに、縋りついた。 そして、その体勢のまま…歌い始めた。 Aメロを歌ううちに… 僕の中に、その曲の映像が広がり… そしてその主人公に…無事転生することができた… そして、立ち上がった。 主人公の顔で、力強くサビを歌い上げた。 何とか最後まで…歌い切った… 僕は再び…膝をついた。 パチパチパチパチ… 大きな拍手と声援が起こった。 「…ありがとねー」 「…じゃあ、最後の曲いくね、今日もホントにみんな、ありがとう…」 いつになく覇気のないMC2人組も、 おそらく立っているのがやっとだったに違いない… そして、前回と同じく… サエゾウのギターから始まるあの曲が始まった。 僕は蹲ったまま… 彼らのサウンドに犯されていく感覚を満喫しながら… …歌い始めた。 必死で立ち上がろうとするも… 身体が震えて立ち上がれない… 僕はまた、手すりに縋りついた。 そして客席に身を乗り出すようにして、歌い続けた。 間奏になり…サエゾウのギターソロが響く中… 僕は這いずるように後ろへ下がった。 そして、バスドラムに捕まりながら… ようやく立ち上がった。 そして、残りの力を振り絞って… 最後のサビを歌い上げたものの… エンディングのギターのリフになったところで… サエゾウの足元に、へたり込んでましまった… (俺のことも勃たせてね…) ふと、その言葉を思い出して… へたりながら…僕は、 リフのメロディーを弾き上げるサエゾウを… 力無く…見上げた。 彼が弾き終わったところで… 会場は、拍手と声援に包まれた。 「サエー」 「シルクー」 「カーイー」 「カオルー」 あ、よかった…今回も呼ばれた… 幕が降り始めた。 サエゾウが…自分を見上げている僕を、見た。 そして彼は、 うっかり手を伸ばして…僕の頬に触った… 「キャーーっ」 「ああー」 歓喜の悲鳴が沸き起こる中…幕が降り切った。 僕はまた… その場にバタッと倒れた。

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