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シキの陰謀(3)
何杯もおかわりして、
お互いだいぶ飲み進んだ頃に…
…シキは、切り出した。
「ねえ、カオルってさ…やっぱあいつらにそーいう扱いされてるの?」
「…っ」
「いや、俺もされたからさ…」
「…そう…なんですね」
僕は、以前の3人様の愚痴大会を思い出した。
そっか…この人も、
同じような目に遭ってた筈なんだよな…
「玩具って言われても困るよねー」
「…確かに…シキさんって、ちょっとイメージ違いますよね」
「うん…それも、トキドル辞めた理由の1つかなー」
「…」
「俺、元々そっちじゃないし…」
「そうなんですね…それは大変だったでしょうねー」
「…カオルは?平気なの?」
「…うーん…まあ、今のところは…」
僕はこれまでの…
彼らとの行為の数々を、思い出しながら答えた。
「…そこまで、嫌では…無かった…かな」
「だったら良いんだけどさー」
シキはハイボールを飲みながら…妄想した。
(あいつら…こいつを輪姦してんのか…)
シキの頭の中には、
ボーカルの僕への嫉妬心よりも…
僕を玩具にしているっていう
むしろ他のメンバーに対する嫉妬心の方が…
フツフツと湧き始めていた。
シキは、僕の気を引く言葉を選んだ。
「でも、ちょっと可哀想だよなー」
「…」
「身体とか、大丈夫?」
「…あ、はい」
「何回も挿れられちゃったりするんでしょ?」
「…んんー…まあ…」
「あいつら容赦なさそうだからなー」
「…それはありますねー…」
そしてシキは、僕の頭に手を乗せながら続けた。
「辛くなったら俺に言ってね。俺からあいつらにガツンと言ってやるから」
「…あ、はい…」
それからシキは、共通の話題と思われる
ボーカルに関する話をし始めた。
「だいたい皆さー、歌の難しさを分かってないよね」
「あーそうですよねー」
「ギターとかドラムとか、すごい頑張ってる感が伝わりやすいけどさ、歌って伝わんないよね」
「うんうん…分かりますー」
「カラオケとかもあるし、素人の奴らも、みーんな、俺歌上手いって思ってたりするし」
「声の出し方とか、全然違うんですけどねー」
ボーカルあるあるに、僕は完全に食い付いた。
だってホントにそうなんだもん。
そこ分かって語り合える人って
これまで、なかなか出逢えなかった。
そんな事もあって、
僕はすっかり…
シキに心を許してしまっていた。
ある意味、彼の企みに…まんまとハマっていた。
楽しく語り合ううちに、
時間はあっという間に過ぎていった。
ラストオーダーの時間になってしまった。
すっかり酔っ払ってしまった…
「いやー楽しかったわー」
「僕もです…まだまだ話し足りないくらい…」
と、ふと思い付いた風に、シキは言った。
「よかっらさ、ウチ来ない?ここから歩いて行ける場所なんだけど…」
「えっ…」
「そしたら、YouTubeとかも観れるし、俺もまだまだ語りたい…」
「いいんですか…?」
彼の申し出に、少し驚きはしたが…
すっかり酔っ払って、
シキとの楽しい時間を過ごした僕に、
それを断る理由はひとつも無かった。
「よし、じゃあ行こうー」
僕らはグラスに残ったハイボールを飲み干して
席を立ってレジに向かった。
財布を取り出した僕に、シキは言った。
「いーよ、俺が払う」
「え、でも…」
「今日わざわざ来てくれて嬉しかったから」
「…でもLIVE代も払ってないのに」
「しかもすげー楽しかったからさ、奢らせて」
「…わかりました…ご馳走になります」
何かカッコいいじゃん…
とまで僕は思ってしまった。
それから僕らは店を出て、
駅とは反対方向の、シキの家に向かって歩いた。
「いやマジで、楽しかった。カオルと話合うなー」
「まあ、同じ境遇でしたからね…」
「その話も聞きたいな…人のいない所じゃないと聞けない話とかー」
「マジですかー」
15分くらい歩いただろうか…
大きな通りの信号を渡ってほどなく、
1階がコンビニのマンションの前で、彼は言った。
「この上なんだ。何か飲み物買ってくか」
「そうですね…」
そして、そのコンビニで僕はハイボール缶を買った。
「いつもハイボールなの?」
「ええ、まあ…」
シキは、ウイスキーの瓶を買っていた。
「すごいの買いましたね…」
「いやでも、中身はハイボールと一緒だから」
そして僕らはエレベーターで上に上った。
シキの部屋は5階だった。
ドアを開けて…
シキは僕を部屋の中に入れ、鍵をかけた。
僕の背後で、彼はニヤっと笑っていた。
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