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いつもと違うリハ(2)

「とりあえず休憩にしよう」 カイはドラムから立ち上がって、 僕のとなりに来た。 「立てるか?」 そう言いながら彼は、僕の腕を掴んだ。 「…っ」 僕はまた、ビクッとして カイの、その手を振り払ってしまった。 「…」 「…すいません…大丈夫です」 僕はフラフラと、立ち上がった。 そして、カウンターに座り… 震える手で、残っていたハイボールをひと口飲むと、 煙草に火をつけた。 他の3人は、顔を見合わせた。 「どうしたんだ…」 「確かに具合悪そう…」 「具合っていうか…いつもみたいに…全然、曲に入っていけてなかったな」 シルクが呟くように言った。 とりあえず他の3人も、カウンターに座った。 彼らは、僕を…見守るしか無かった。 「そーだ、俺の新曲、かけていい?」 サエゾウが思い出して、言い出した。 「おおー聴きたい」 「うん」 サエゾウは、自分のスマホにケーブルを繋げた。 そして…スピーカーから、曲が流れ始めた。 僕らは、それに聴き入った。 「…」 どことなく和風なギターのリフが… まさに、宵待ちの月を連想させた。 そして、宵待ちの月の人の…悲しい感じと、 彼に想いを寄せる切ない感じが… 僕には、既にメロディーとなって聴こえてきた。 あ…ちゃんと聴こえるじゃん よかった、 完全に遮断されたわけじゃなかったのか… 僕は、サエゾウと一緒に見上げた、 あの夜の月を思い出した。 …あの日に戻れたら… 「へえーいいじゃん…」 「うん、何かすごい切ない感じがたまんないね」 「…」 僕はカウンターに肘をついて、顔を両手で覆った。 …涙が溢れてきてしまった。 「…えっ…何、泣くほどよかった?」 サエゾウが訊いてきた。 「これ、またお前に歌乗せて欲しいんだけど…」 「…う…うう…」 僕は何も答えられなかった。 顔を覆ったまま…ただ静かに、肩を震わせた。 3人は、そんな僕の様子を… やっぱり見守るしか無かった。 「とりあえず、カオル今日はもう帰った方がいいな」 「そうだね」 「新曲一応、形になったしね」 「…すいません」 僕は、涙を拭きながら顔を上げ… 言われるがまま…椅子から立ち上がった。 「1人で帰れる?」 「…大丈夫です…」 僕はフラフラと、ドアに向かった。 ドアノブに手を掛けて… 少し考えてから、僕は振り返って言った。 「サエさん…この曲、送ってください」 「…わかったー」 そして、僕はドアを開けて、店を出ていった。 「…何か、あったのかな…」 シルクが呟いた。 「ちょっと尋常じゃなかったよね」 「次までに元気になるといいんだけど…」 サエゾウは、すぐにスマホを操作して 音源をグループLINEに貼り付けた。 「よしっと…」 「どーする?俺らだけで、もうちょっと練習する?」 「そーだね…」 彼らは、いたしかたなく…練習を再開した。 その頃ショウヤは、カメラマン仲間たちとの 合同企画展の打合せに参加していた。 本題のミーティングが一区切りついてから、 とある仲間の1人が、ショウヤに声をかけてきた。 「ねえショウヤ…こないだの写真集、ちょっと見せてくれる?」 「…ああ、いいけど」 ショウヤは鞄からトキドルの写真集を取り出して 彼に渡した。 彼はそれをパラパラとめくった。 そして僕のページを開いて、マジマジと見た。 「この人ってさー」 彼はタブレットを取り出して、 先日のライブハウスで隠し撮りした、 僕の写真を探し出して、ショウヤに見せた。 「…この人…だよね?」 「…」 ショウヤはそれを見て、頷いた。 「うん…何、これどこで撮ったの?」 「いや…実はね…」 彼は、あの日のことを、ショウヤに話した。 「ふうーん…」 どういう事なんだろうな… メンバーのみんなは知ってるんだろうか… いやでも、もしかしたら… カオルさんは隠しておきたいかもしれないなー 下手に僕が知らせない方がいいか。 「わざわざありがとうね」 ショウヤは彼にお礼を言うと、 とりあえずその日は、その打合せに没頭した。

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