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穏やかな時間(2)

「それではー改めて…」 「カオル奪還大作戦の成功を祝して…乾杯!」  「かんぱーい」 「にゃー」 なんかやっぱり… どーしても楽しそうに見えるのは…気のせいだろうか 僕はホントに真剣に病んでいた筈なのになー なんだかなー なんていう釈然としない思いも なきにしもあらずではあったが… この人達に囲まれているうちに… 僕は着実に、いつもの自分を取り戻していた。 僕はハイボール缶をひと口飲んだ。 流石に、なんだかすぐにフワーっとしてきた。 「カオルは、まずコレを食え」 そう言ってシルクが、 特製の鶏肉炊き込み粥を出してくれた。 「めっちゃ美味そうーー」 サエゾウか叫んだ。 いかにも熱々なお粥の中に、 鶏肉が数切れと…キクラゲ少々… そして小ネギがパラパラとかかっていて… 中華料理屋で普通に出てきそうな仕上がりだった。 「…いただきます…」 「熱いから気をつけて…」 ふうふうしながら、僕はひと口食べてみた… うーん…美味しい! 見た目は中華粥っぽいけど、 味は、優しい和風だった。 それは、疲弊した身体に… じわじわと沁み渡った。 シルクすごいな。何でも作れるんだなー 僕は、ふうふうしながら、バクバク食べた。 彼はもう一皿、大きいどんぶりに盛ったのを ドンッとテーブルに出した。 「その他大勢はこっちね」 「わーっいただきますー」 皆んな、直スプーンで取って、 それぞれ、ふうふうしながら食べた。 「めっちゃ美味っ」 「こーれは沁みるな…」 「マジで店出せる」 「…すっごく美味しいです!」 シルクは続いて… 大皿にナポリタンを盛ったのを持ってきた。 「あり合わせで悪いけどー」 「うわーこっちも美味そうー」 「ナポリタンって神だよねー」 僕も…目を輝かせてそっちを見た。 シルクに釘を刺された。 「お前は、よーく噛んで食えよ」 「…はい」 ナポリタンも…それはそれは美味しかった。 美味しいシルク飯を食べながら、 いつもの宴会と化した、居慣れた場面で… いつの間にか僕は、彼らと一緒に笑っていた。 酒のせいの錯覚もあったとは思うが、 身体の調子もすっかりよくなっていた。 そして…僕が元気になってきたのを見計らって、 彼らはついに… 真相に触れてきたのだー 「…で、なんでこんなコトになった?」 「シキが何て言ってきたの?」 「ちゃんと説明してよね」 「……」 若干怖い表情… いや、興味津々な表情で、 彼らは一斉に僕の方を見た。 「…長くなりますけど大丈夫ですか」 「もちろん!」 間髪を入れずにユニゾンで答えが返ってきた。 「…最初は、メッセージがきたんです…」 僕は、順を追って彼らに語った。 あの日シキからメッセージがきたこと、 LIVEに行ったこと、 それが割と良いLIVEだったこと… 飲みに誘われたこと… ボーカルあるあるの話が、結構楽しくて、 うっかり心を許してしまったこと… もっと話したくて、家に行ってしまったこと… そして、縛られて…無理やり犯られたこと 画像送るって脅されたこと… そのあと呼び出されて、彼の家に行ったきり… もう逃げる気力が出なかったこと… 「何で、逃げる気力が無くなっちゃったの?」 「…それは…」 僕は、下を向いて… また少し悲しい表情になった。 「リハのとき…僕の曲やったじゃないですか…」 「…うん」 「演奏はすごく良かったのに…僕自身が、これっぽっちも全然、感じなかったんです…」 「…」 「でも、その後に呼び出されてからは…」 僕は、手で顔を覆った。 「トキドルで歌ってるときは、全然感じなかったくせに…シキさんにされてるときは気持ち良くって…」 「…」 「もう僕は…そーいう身体になっちゃったのかな…って思ったら…何かもう、死にたくなっちゃって…」 「…」 一同はそんな僕の姿を、 黙って見つめ続けていたが… やがて… 意外にもシルクが、口火を切った。 「じゃあ、確かめといた方がいいんじゃない?」 「…それもそうだな…」 「チューで我慢しようと思ってたのに、そーいう事言っちゃう??」 「いや確かに…確認しといた方がいいかもね」 「大丈夫です、僕は見学で十分です」 「…」 あーなんか、 そーいう流れ的な空気になってしまった… 大丈夫かな、僕… と、シルクが向こうに行って…戸棚を漁った。 しばらくして戻ってきた彼の手には、 聴診器が握られていた… 「誰が先生になる?」 なんですってー!?

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