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ふたりの時間再び(1)

診察を無事終えた僕は… 身体を拭いてもらいながら… そのまま、寝入ってしまった。 「疲れてんのに…無理させちゃったなー」 サエゾウは、僕の髪を撫でた。 シルクは僕の身体に、フワッと毛布をかけた。 「…ハルトさん、ありがとうございました…」 ショウヤがハルトに言った。 「いや、ごめんね、俺なんかで…」 「とんでもない、とても気持ちよかったです!」 それぞれ、ちゃんとズボンを履き直して… 彼らは再びテーブルを囲んだ。 「この調子なら…歌も大丈夫なんじゃないの?」 「…だといいけどね」  「それにしても、シキーむかつくっ…」 サエゾウが、新たにハイボール缶を開けながら 怒った口調で言った。 「まー実際、あいつよりカオルの方が、断然良いからね、妬む気持ちも分からんでもない…」 「あいつの性格なら、尚更だよなー」 「それにしたって、やり方が汚いー」 「とりあえず絞めといたから、もうチョッカイ出してくることは無いと思うよ」 「…でも、きっと…嬉しかったんだろうな…」 「え?」 シルクが言い出した。 「いや…カオルさ…ボーカルあるあるの話が」 「…そーかもね」 「…また俺ら、ちょっと特殊じゃん?」 「確かに…」 「きっと、愚痴のひとつも聞いてくれたシキのこと、本気で信用しちゃったんだろうなー」 「…」 彼らは、寝ている僕の方を見た。 僕はもう完全に…眠り込んでいたが… 「大事に…してあげなきゃね」 「…うん」 「玩具は大切に扱いましょうー」 「ふふっ…」 そう言いながら… 彼らは再び、小さく乾杯した。 その日の宴会は、ほどなくお開きとなった。 僕を起こさないように、 なるべく静かに、テーブルも片付けた。 「カオルさんの荷物…ここに置いてあります」 ショウヤが言った。 僕が着ていた服とか、 財布とか、スマホとか、家の鍵とか… ショウヤとハルトが回収しておいてくれた。 「靴は玄関に置いてあるから」 ハルトも言った。 「わかった、ありがとう…」 「じゃあ後は、郁よろしくね」 「どーせまたやっちゃうんだろー」 サエゾウは、またちょっと悔しそうだった。 「…どうかな…大事にしとくかも」 シルクは、冗談半分、本気半分で答えた。 そして、 一同は、シルクの家を出ていった。 ひとり残ったシルクは、 回収された僕の服を集めて、 洗濯機に突っ込んで、スイッチを入れた。 そして、僕が寝ている部屋の電気を消した。 それからしばらくキッチンで、 下げられた食器を洗ったり… 残り物を片付けたりした。 「…」 少し考えて… 明日のために…と、大豆を水に浸けた。 (なるべく栄養摂らせないとな…) そして、ベランダのドアを開けて… 煙草に火をつけた。 (ずっと家空けてたからな…明日一緒に行ってやった方がいいかもな…) (バイト先とかも、どーなってんだろう…) シルクは、まるでお母さんのように 僕のことを色々と考えてくれていた。 ピーッピーッピーッ… 洗濯終了のお知らせが鳴った。 彼は煙草を消すと… 僕の洗濯物を、ベランダに干した。 (これも充電しとくか…) 彼は、僕のスマホを手に取った。 たまたま同じ機種だったので… 彼は、コンセントに差しっぱなしだったコードに 僕のスマホを繋いだ。 そしてようやく… シルクも布団に入った。 それからどれくらい時間が経った頃か… 「うう…ん…」 夢の中で… 僕はまた、あの部屋の天井を眺めていた。 手足の自由を奪われ、 あのベッドに寝かされていた。 シキがやってきた。 そして、僕を見下ろして言った。 「逃がさないよ…」 「…うう…」 「ずっと俺の玩具でいてよ…」 ニヤっと笑ったシキの顔が、 だんだん僕の目の前に近付いてきた… 僕は大きく首を振った… …ハッと、目を覚ますと… 辺りは、まだ真っ暗だった。 僕は、目を凝らした。 夢の中の、見慣れたあの部屋の天井ではなく、 そうでない、見覚えのある天井の景色に… 僕はホッと胸を撫で下ろした。 隣を見ると…シルクが寝息を立てていた。 僕は再び目を閉じ…記憶を辿った。 助かったんだ… この人たちが、 僕をあの部屋から助け出してくれたんだ…。 僕はそっと… シルクの顔に、手を伸ばした。 「…ん…」 「…」 シルクが、静かに目を開けた。 「…ごめん、起こした…」 僕は、小さい声で言った。 と、シルクは…僕の方に両手を伸ばして… 僕の頭を抱き寄せた。 「…ん」 僕も、シルクの身体に腕を回した。 そして、自分の足を、彼の足に絡ませた。 そのまま… 全身に、シルクのぬくもりを感じながら… 僕はまた、目を閉じた。 そして、心の底から安心して、 再び安らかな眠りについたのだった。

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