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ふたりの時間再び(3)

そのまま僕は…再び寝入ってしまった。 次に目が覚めると… 隣にシルクがいなかった。 閉められた扉の向こうの、キッチンから… 何やら物音が聞こえていた。 「…うーん…」 僕はゆっくり…身体を半分起こした。 まだまだボーッとしていた。 いくらでも寝れそうだった。 「…」 再び僕は、パタッと布団に横になった。 「…ふぅー…」 いやでも起きなきゃ… ただでさえ、身体が鈍ってるのに… 動かさないと、どんどん体力無くなってしまう… 僕は気持ちを振り絞って、起き上がった。 そして立ち上がり… キッチンへの扉を開けた。 「…おはよう」 調理台に向かっていたシルクが、 振り返って言った。 「…ん…」 「どう、調子…」 「…うん、眠い…」 「まだ寝ててもいいよ?」 「ううん…動く…」 そう呟いて…僕はベランダに通じる窓に向かった。 「煙草もらうね…」 「どうぞ」 僕は窓を開けると… シルクの煙草を1本取り出して、火を付けた。 「ふうー」 煙草も久しぶりだった。 すぐに頭がふわーっとクラクラしてきてしまった。 「大丈夫なの?」 シルクが、フラつく僕の肩を押さえながら訊いた。 「…うん…あんまり大丈夫じゃなかった…」 そう言って僕は、 吸いかけの煙草を、彼に手渡した。 「しょうがないなー」 そして僕はフラフラと部屋に戻ると… 結局また、布団にバタッと倒れ込んだ。 「…うーん」 「まー無理すんなよ、寝たいだけねてろ」 そう言ってシルクは… またキッチンへ行って、何やら仕込みに精を出した。 しばらく横になっているうちに、クラクラは治った。 僕は再び、上体を起こした。 ジュー 何かを炒める音がした。 そして…ニンニクの良い香りが漂ってきた… 何作ってるんだろうな… そして、また何か具材が投入されたらしい、 更に大きな、ジューーっていう音が響いた。 その音と香りに刺激されて、 少し、お腹が空いてきた。 それからまた、カチャカチャと、 何やら色々な音がしていたが… そのうち、バタバタと支度をして、 シルクは、僕の方を見て言った。 「ちょっと買い物行ってくる…」 「…あ、うん…」 「スマホとか、充電できてるハズだから…」 「…あ、ホントに?…ありがとう…」 「風呂入いるんなら、タオルとか出しとくけど?」 「…あー…そう…だな…」 「いや別に、寝ててもいいし…」 「…」 シルクはちょっと考えて…言った。 「やっぱ風呂は、俺帰ってからにして。途中で倒れたら困るから…」 「…わかった」 そして、彼は買い物に出て行った。 シルクって…お母さんみたいだな… 僕はひとりで、クスッと笑った。 そして、とりあえず… 手を伸ばして、スマホを取った。 開いてみると… 色々なアプリの…ほぼ全てにバッジが付いていた。 そりゃーそうだよなー ちゃんと見るの…いつぶりだろうか… 特にLINEのバッジは、桁が違った。 トキドルのグループLINEはもちろん… メンバーそれぞれからも、 個人的に何度もメッセージが入っていた。 バイト先からも… たまたま、連絡をくれた親からも…。 とりあえず、できる所から、返信をしていった。  バイト先は…どうしよう…。 もうクビになっちゃうかもしれないなー 一応…ダメ元で、連絡しといてみるか… SNSのメッセージにも、バッジがついていた。 何となく嫌な予感がした… 僕は、それも…開けてみた。 「…!」 予感は当たった。 そこには… シキからのメッセージが…入っていたのだ。 「…」 身体が勝手に硬直した… そして、恐る恐る…それを開いた僕は、 その内容を見て、更に愕然とした。  諦めてないからね そこには…短く直球で、そう書かれていた。 心臓の音が… バクバクと高鳴っていくのが、自分でもわかった。 そして、シキに凌辱されたいくつもの場面が、 僕の頭に甦ってきた… 僕は思わずスマホを投げ捨て… 再び横になって、毛布を頭からかぶった。 ああ…僕は… これからずっと、こんな風に… あのときの屈辱的な記憶と、 シキへの恐怖心に、囚われ続けていくんだろうか… 「ただいまー」 シルクが帰ってきた。 彼は、僕の様子を見ると… 驚いて、荷物を持ったまま、駆け寄ってきた。 「どうした…?」 シルクはそっと…毛布をめくった。 「…」 「何か…あった?」 「…」 僕は黙って…少し震えていた。 シルクは、ふと… 投げ捨てられた僕のスマホに目をやった。 「…」 (やつから連絡があったのか…) それを見て…悟ったのであろう彼は… 冷静に、僕に向かって言った。 「…強くなれ、カオル…」 「…」 「全部…俺たちに、言え!」 「…」 何も返せない僕に向かって… シルクは続けた。 「辛かったのはね…お前だけじゃないんだよ」 「…?」 僕はゆっくり顔を上げた。 シルクは、僕の目を見つめて…また続けた。 「お前を、奪われて…すげー辛かった。俺だけじゃない、カイもサエも…ハルトも…ショウヤだって、泣いてたろ?」 「…」 「でも、俺たちは乗り越えた。もしこの先、あいつがどんな手を使って来ようと、俺たちは屈しない」 そして…彼はニヤッと笑った。 「いや…むしろ、のし紙付けて、正々堂々お裾分けしてやってもいいくらいだ…」 「…え?」 「だって…カオルの…お前の気持ちが揺るぎなくココにあるって事…ちゃんと分かってるから…」 「…」 シルクは、僕の顔を、両手で押さえた。 そして、強い口調で言った。 「シキを掌の上で転がしてやるくらい、強くなれ!」 「…」 僕は…シルクを見つめた。 涙が溢れてきた… 「…大丈夫だから」 「…うっ…うう…」 シルクは、そんな僕を、思い切り抱きしめた。 僕は…そのまま、彼に身を任せて…泣いた。 彼は…僕の髪を、優しく撫でながら、 更に言った。 「なんなら、いくらでも…あいつんとこ行って、経験値上げてきて…」

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