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ふたりの時間再び(5)
片付けも終わった。
「じゃあ行くか…」
「…うん」
少し残念な気がした。
もうしばらく…この居心地の良い場所に、
2人で居られたらなーと…
僕はちょっと思ってしまっていた。
「忘れ物ないな」
「…たぶん…」
「まー忘れたら、それ口実に、また来て」
「…あはは…」
そして僕らは、シルクの家を出た。
シルクの家から僕の家までは、
歩いて5分もかからなかった。
ちなみに…その中間地点ら辺に、
ショウヤの、自宅兼写真館があるのだが…
小さい雑居ビルの、階段を上がって…
3階が、僕の住まいだった。
僕は、鍵を開けて…ドアノブに手をかけた。
そして、シルクを振り返って、念を押した。
「ホントに散らかってるからね…」
「はいはい」
そしてゆっくりドアを開け…中に入った。
久しぶりの…自分の家…
なんとなく、空気がこもってる感じがした。
「…何か、モワッとしてるな…」
言いながらシルクも、靴を脱いで上がってきた。
「お邪魔しまーす…」
僕はとりあえず、
いくつかある窓を、全部開けて回った。
「なるほど…出かける前のカオルが、割と散らかしてったんだねー」
部屋を見渡して…
シルクは笑いながら言った。
「…っ」
確かに、布団は敷きっぱなしだったし…
シンクには、置きっぱなしのグラスが、
カラカラに乾いていた。
僕は冷蔵庫を開けた。
常備されていたハイボール缶が、
いい感じに冷え冷えになっていた。
僕はそれを、2本取り出して…
1本を、シルクに渡した。
「さんきゅ」
そして僕らは、
色々と物が乱雑に置かれたテーブルを囲んで座った。
「…!」
シルクは、そのテーブルに…
無造作に置かれた、五線譜を手に取った。
「これって…」
僕は、ハイボール缶を開けながら…
あの日のことを思い出した。
「あーそうだ…宵待ちの月の人…」
僕はゴクンとひと口飲んで…続けた。
「…ちょうど出かける前に、出来たんだった」
「…」
シルクも缶を開けて…
僕の缶と、ちょっと乾杯してから…口を付けた。
そして、その五線譜を、
マジマジと見ながら言った。
「コレじゃよく分かんないな…歌ってみてよ」
「…んー覚えてるかなー」
僕はスマホを取り出して…LINEのメッセージから、
サエゾウの曲の音源を探した。
音量を最大に上げて…曲を流した。
そして、その五線譜を見ながら…
小さい声で、歌ってみた。
日に日に満ちていく月を見上げながら…
待ち遠しかった筈の満月の晩に、
宵待ちの月の人は、雨が降って欲しいと願っていた。
還りたくなくなってしまったから…
このままずっと、
抱かれ続けていたくなってしまったから…
そんな感じの内容だった。
シルクは下を向いて…
ずっと目を閉じて聴いていた。
「…」
曲が終わって…彼は顔を上げて言った。
「すげー良いじゃん…サエ泣いて喜ぶよ」
「…そう…かな」
「…うん」
頷きながらシルクは、
ハイボール缶をゴクゴクと飲んだ。
「どうやって作ったの?」
「…作ったっていうか…」
僕も、つられてゴクゴクと飲んで…言った。
「聞こえてきたのを形にしただけ…って感じかな…」
「へえー」
「…あの日…リハのときは何も感じなくて、すごく焦ったんだけどね…辛うじて、この曲からは、歌が聞こえてきて…すごくホッとしたんだ…」
「ふうん…」
シルクは、少し拗ねたような表情をした。
「カイの曲と言い…ちょっと妬けるわー」
「…」
そしてシルクは、
またゴクゴクと飲んでから言った。
「今度、俺の曲も聞いてみて欲しいな…」
「…うん…すごく聞きたい、シルクの曲…」
シルクは、手を伸ばして…
僕の頬を撫でた。
僕はそっと…彼のその手を握った。
シルクはそのまま…僕ににじり寄ってきた。
そして…僕の顔を両手で押さえた。
僕は、彼の目を見て…言った。
「シルクの曲の歌…すごく聞こえてくると思う…」
「…何で?」
「…何でかな…」
「大好きだから?」
「…うん」
僕は答えた。
「…何か…無理やり言わせた感じだなー」
「…うん」
「あはははっ…」
笑いながら…
シルクはゆっくり、僕に口付けた。
やがて、そっと口を離して、彼は言った。
「…ヤりたい」
僕は、頷いた。
「…うん…」
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