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大きな子猫

アリオラ王妃の弟である、と告げたイーラは、固まっているグリゴールに抱きついたまま、その反応を面白そうに眺めている。 「ごめんね?言う前にグリゴールが出てっちゃったから言うの忘れてたよ」 悪戯っぽく何でもない事のように言うイーラにランシェットは圧倒されていた。 あの日、輿入れしてきたアリオラ王妃と窓越しに視線がぶつかった時の事がランシェットの脳裏に蘇る。 強い眼差しと、健康的な褐色色の肌。 豊かな黒い髪の毛。 ガズールの人は皆意思が強そうな顔立ちなのかと思っていたが、まさかこの二人が姉弟だったとは。 「姉上は俺がグリゴールと恋人同士だったことなんて知らないし、ただ単に邪魔者を始末して欲しかったみたいで俺を呼び寄せたようだけど」 振り返ってランシェットの方を一瞥するイーラ。 一瞬でその場に緊張が戻る。 「イーラ…お前の目的が『花』の抹殺なら…俺は全力でお前と戦わなければいけない」 「んー…正直どうしようか迷ってる」 「は…?」 「俺はグリゴールさえ傍に戻ってくれたら、『花』なんてどうでもいいんだ。それに、こんな時だけ都合良く俺の手を汚させるなんて、姉さんにはちょっとがっかりしてるんだ」 イーラの眉が力が抜けたように下がるのを見て、ランシェットは妹を思い出していた。 フォルスト王の元に仕える為、領地を離れると告げた日のマルールも、ドレスをくしゃりと手で掴んで眉を下げて珍しく駄々を捏ねた。 離縁されたというマルールは元気なのだろうか。 大人になった姿も見ないまま、塔に幽閉されてしまったなと感傷に浸ったまま二人を眺めていると、気に触ったらしいイーラが声を荒らげた。 「何?そんな目で見てどういうつもり?…絶対グリゴールは渡さないからね!」 「いや、妹を思い出して…王弟殿下に大変失礼致しました」 相手は他国の王子ーもといアリオラ王妃の弟であり、フォルスト王の義弟でもある。 臣下の出であり、幽閉されていた自分が同等の態度ではいけないと途中で態度を改める。 それを見たイーラは、ふん、と鼻を鳴らした。 「馬鹿じゃない、殺されかけといて。 …普通に話しなよ」 少し照れたように、イーラは口を尖らせている。 …思った以上に、彼は直情的で素直なのかもしれないと思った。 「良かったな、イーラは嘘はつかないんだ」 な?、と少し諦めたようにふにゃりと笑って、グリゴールがイーラの頭を撫でると、まるで小さい子供のような邪気のない表情でイーラが笑った。 その横で、大きな溜息をついてイーラの側近が肩を落とした。 彼の苦労は、まだまだ尽きなさそうだ。

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