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想いの行方

イーラたちと共に王都を目指して街道を進む。 普段なら民が行き交う活気に溢れた街道だが、今は閑散としており、時々大荷物を背負った家族らしき数人の集団が駆け足ですれ違うだけだった。 「だいたいの貴族はローザの方に逃げてるみたいだよ」 ローザは王都に次ぐヴォルデ第二の都市で、塔から王都に向かうこちらの街道と王都を挟んでほぼ対角線上にあった。 別宅を持っている貴族も多く、安全でも田舎に逃げ生活の質を落とすのは嫌なのだろうなとグリゴールも納得していた。 「ねえ、あんたは王のところに戻ったらどうするつもりなの?」 「私…ですか?…正直、十年も経っていますからどうしたらいいのか…」 アリオラ王妃に命を狙われている以上、王宮にすんなり入れるとも思えないし、王は今のランシェットを以前のように想ってくれているのかも確証が持てない。 ただ今は、毎日届けてくれていたというクランベリーソースだけが、もしかしたらという淡い期待をランシェットに抱かせていた。 「王は今の私を見ていません。肌も髪もあの頃のように若々しくもない。 …幻滅されるかもしれない」 「バッカじゃない?嫌味に聞こえるんですけど?」 暗い表情になったランシェットに、イーラは大きく悪態をつきつつも教えてくれた。 「王都が混乱してる最中にあんたのために使者を立てて新しい服まで用意して、その前から腹心のグリゴールを格下げしてまで塔守につけて。 あんたのために特別に王が庭園でクランベリーを自ら作ってるのも知らないだろうけど、姉さんが嫉妬してたよ」 混乱に乗じて何とか助け出したいと王が苦心したのに、当の本人が分かっていないなんて報われないね、と彼は鼻を鳴らした。 「──────っ…」 不意に、王と過ごした数年間の思い出が脳裏に甦った。 二人きりになると、政務中に決して見せることの無い優しい視線で見つめてくれた事。 優しく髪を指で梳いてくれた事。 愛を交わした夜は、朝まで抱きしめて離してくれなかった事。 共に食事を摂る時、美味しいと思ったものを目敏く見過ごさず、次のメニューに加えるよう指示していてくれた事──── あの頃から今まで、王はランシェットを変わらず慈しみ、愛してくれている。 そう実感した瞬間、嗚咽が込み上げてきた。 もう何年も、深く考えないようにしていた。 一人きりの空間で、今も愛されているか考え出したら、キリがなくて辛くなるから。 あの温もりを思い出したら、傍に居ないのが堪えられなくなるから。 「…ありがとうございます、イーラ殿下」 「あー、そういうの本当にやめて、痒くなる。 それにそんな顔で泣かれたら目のやり場に困るんだよね、周りが」 気がついたら、熱い涙が頬を伝っていた。 そして、周りでそれぞれそっぽを向いているグリゴールとイーラの側近の姿があった。 「グリゴールを誘惑しないでよね」 「まさか…!」 「今晩は落ち着いたら俺と久々に楽しもうね?グリゴール」 ランシェットへの態度と打って変わって魅惑的な表情でグリゴールに誘いの言葉をかけるイーラは、とても眩しく映った。 ごくりとグリゴールの喉が鳴ったのを、ランシェットは聞き逃さなかった。

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