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第1話
ぼーっとしながら、小林 真 は家までの道のりを歩いていた。
真 は至って普通の男子高校生だ。毎日代わり映えのない平和な日々を送っている。
しかし、最近どうも体の調子がおかしい。
頭がぼんやりするような。体がだるいような。
でも食欲はちゃんとあって、毎日きちんと三食食べている。寧ろ満腹なはずなのに空腹を感じるような。飢餓感がずっと消えないような。
自分の体のことなのに、自分でもよくわからないのだ。具合が悪いわけではない。痛いところもない。苦しくもない。
でもおかしい。
最初はあまり気にしていなかった。なんとなく体調が変だな、と思うだけだったので、すぐに治るだろうと考えていた。
けれどいつまで経っても治らない。
こんな状態になるのははじめてで、徐々に不安が募っていく。
真は病気を疑った。そんな筈はないと思いたかったが、もし本当に病気だった場合、このまま放っておくのは危険だ。時間が経てば経つほど悪化する可能性があるのだ。
だから、家に帰ったら母親に打ち明けようと思っていた。両親に心配はかけたくないが、黙っている方が色々と面倒をかけてしまう恐れがある。
真は緊張しながら家のドアを開けた。
「ごめんね真、それお母さんのせいだわ」
真は洗濯物を畳んでいた母親に全てを話した。よくわからない症状だったので説明が難しかったが、それでもできる限りありのままを伝えた。
そして返ってきたのはそんな言葉だった。
え? 健康に生んであげられなくてごめんねってこと?
自分は不治の病におかされているのだろうか。真はそう受け止めた。
青ざめる真に、母は神妙な面持ちで話を続ける。
「実は今まで、真に隠していたことがあるの。というか、一生言うつもりはなかったんだけど……」
「え……? か、隠してたこと……? なに……?」
「実はお母さんね、サキュバスなの」
「…………は?」
「人間の男の精気を食べて生きる淫魔なの」
「へ…………?」
「お父さんと出会って恋に落ちてからは、お父さんの精気しか食べてないけどね」
「…………」
真は言葉をなくして母を見つめた。
確かに母は人間離れした美貌の持ち主だ。スタイル抜群で、街を歩けば必ずナンパされる。ただ歩いているだけで男が寄ってくる、それが真の母だ。
だがしかし、いきなりそんなことを言われてもすんなりと受け入れることなどできない。
「えっと……冗談、だよね……?」
もちろん、本気で自分の体調で悩んでいる息子に冗談を言うような母親ではないとわかっているけれど。
困惑する真を見て、母は困ったように苦笑する。
「ごめんね、こんなことならもっと早くに打ち明けておけばよかったんだけど……。てっきり真は普通の人間として生まれたんだと思ってたから……だったらお母さんがサキュバスだなんて話さずに隠しておいた方がいいってお父さんと相談して決めたの」
決して嘘や冗談を言っている雰囲気ではない。
嘘や冗談だと決めつけて、突っぱねることなどできなかった。それがどれだけ信じ難いことでも飲み込まなければならないのだと真は悟った。
そして母の話から、このおかしな体調は母がサキュバスなのが原因なのだと思われる。
「えっと……お母さんは人間じゃなくてサキュバスで、それが僕の体調と関係があるってことだよね?」
「ええ。多分真はサキュバスとして目覚めてしまったみたい」
「え? 僕、男なのに?」
「人間としての性別はあまり関係ないわ」
「はあ……」
「半分サキュバスで半分人間みたいな状態だと思うの」
「へえ……」
「体調がおかしいのは、体が精気を求めているからよ。人間の食事だけじゃ足りないのね」
「精気を食べれば治るの?」
「そうね。これからは毎日じゃなくても、定期的に精気を食べないとダメだと思うわ」
「その、精気ってどうやって食べるの?」
「もちろん、人間の男とセックスするのよ」
「せっ…………!?」
真は真っ赤になって絶句する。
母親の口からセックスという単語が出てきたことに、なんとも言えない居たたまれなさを感じた。
「っていうか、男と……? 僕は男だし、普通は女の子とじゃないの……?」
「サキュバスは男の精気しか摂取できないもの。サキュバスの血が流れてる真も、男からじゃないと精気を食べられないわよ」
「ええ……!?」
真はショックに大声を上げる。
衝撃に頭がくらくらした。
「そ、そんな……。もし、このまま精気を食べなかったら、どうなるの……?」
「徐々に衰弱していくと思うわ。もう真は精気なしじゃ生きられない体になってるはずだから」
「ええー……」
真は愕然として頭を抱えた。
男とセックスしなければ生きられない体になってしまっただなんて、あまりにも絶望的な現実にどうすればいいのかわからない。
母を責める気持ちはなく、寧ろ縋りついて助けを請う。
「ど、ど、どうしよう、僕、そんな相手いないよ……」
「簡単よ、好みの男に声かけて誘惑すればいいだけなんだから」
「無理だよ!!」
「大丈夫よ、サキュバスとして目覚めてるなら魅了 が使えると思うから」
「ちゃーむ? ってなに……?」
「目を見つめるだけで男を魅了できちゃう力よ。それを使えばノンケだろうが恋人がいようが結婚してようが真にムラムラしてセックスしたくて堪らなくなるわ」
「浮気や不倫は嫌だよ!!」
「当たり前でしょう、ただの例えよ。狙うのはフリーの男にしなさい」
母はぐっと身を乗り出して無茶を言ってくる。
「いい? フリーで好みの男を見つけたら、声をかけて抱きついてすり寄って潤んだ目で上目遣いすればそれでいいの。それだけで相手の男は襲いかかってくるから、あとは身を任せて。多分サキュバスとして体が変化してるからスムーズに性交を行えるはずよ」
「そんなことできないよ!!」
そもそも真は男が好きなわけではない。
せめて女の子が相手なら……と思うがすぐに考えを改める。クラスの女子とも緊張してまともに目も合わせられない真に、女性を誘惑して性交に及ぶなど不可能だ。だからといって男が相手であればできるとも思えないが。
大体、絶世の美女と言っても過言ではない美しい容姿をしている母とは違い、真は外見も中身も至って地味で平凡だ。母に似て美人だったら誘惑することもできたかもしれないが、生憎と真は父親似で母親の要素を一つも受け継ぐことなく生まれてきた。
そんな真に抱きつかれすり寄られれば、相手の男は気色悪がり突き飛ばすだろう。真だってそうする。
「む、無理だよ、僕には……。大体、好きでもない人とそんなこと……」
「サキュバスにとってはただの食事よ、割り切るの。お母さんだってお父さんと出会う前はそりゃあもう色んな男と……」
「言わなくていいから!!」
とんでもないことを言い出しそうな母の話を慌てて遮る。自分の親のそういう話は聞きたくない。
「うぅ……でもこのままじゃ、僕死んじゃうの……?」
「大丈夫よ、お母さんの知り合いの男を紹介してあげる。でもできれば、真には自分で相手を選んでほしいのよね。食事とはいえセックスするんだし」
「そんなこと言われても……」
「そうねぇ、とりあえず、一週間様子を見ましょう。まだ切羽詰まってる状況じゃないもの。一週間以内に真が好みの男と……精気を食べたいって思うような男と出会えなかったら、お母さんが男を紹介するわ」
「一週間……」
「あっ、勘違いしないでね、知り合いの男って本当に知り合いで肉体関係とかないからね。確かに若いときはお母さんも色んな男をつまみ食いしたけど今はお父さん一筋だから。男の子が好きな知り合いの男だから」
「わかってるよ……」
焦った様子で言ってくる母に、溜め息を零す。
母はどんな男も手玉に取れそうな美人だが、旦那に選んだのは至って平凡なサラリーマン。美女と平凡な夫婦だが、二人は今もラブラブで幸せオーラを撒き散らしている。息子の前でも平気でイチャイチャしている。というか、母が父にメロメロなのだ。恥ずかしがる父に母が構ってほしくて引っ付いている。
その様子を毎日間近で見ていて、母が浮気をしているだなんて思うはずがない。
そして今、そんなことは心底どうでもいい。今はそれどころではない。
病気ではなかったのはよかったが、しかし全く喜べない。新たな不安が生まれただけだ。
嘆息し、真はとりあえず制服を着替えるために自分の部屋へ向かった。
翌日。は学校の廊下をのろのろと歩いていた。
母がサキュバスという事実が判明しただけでも充分ショッキングな出来事なのに、それに加えて自分も半分サキュバスで男とセックスしなければ生きられなくなってしまっただなんて、受け入れ難い現実に打ちひしがれ、今日はずっとぼーっとしていた。授業にも身が入らず、気づけば放課後になっていたという状況だ。
口から漏れるのは溜め息ばかり。
悲観しているだけではどうにもならない。しかしどうすればいいのだろう。
自分で男を誘惑するなんて無理だ。魅了 の使い方もわからないし、使えたとしても使いたくない。真のことを好きでもない男に、同性の地味で平凡な自分を抱いてもらうなんて申し訳ない。せめて自分が美少年だったら罪悪感も少し薄れたかもしれないが。
同意も得ずにセックスだなんて、やはりよくない。
そんなことをぐるぐると考えて、真の気分は沈みっぱなしだ。
人のいない廊下を足取り重く歩いていると、前から誰かがこちらに向かって来るのに気づいた。
何気なく視線を向けると、それは同じクラスの今井 という男子生徒だった。
染められた髪、ピアスの開けられた耳、切れ長の瞳。顔立ちは整っているが、口調が悪く態度の大きい彼は真の中で不良と認定されていた。決して関わり合いたくないタイプだ。
しかし実は、今井とは小、中、高と同じ学校に通っている。小学生のときも同じクラスになったことがある。
今井の方は、地味で目立たない真のことなど認識もしていないだろうが。きっと真の名前さえ知らないだろう。
その今井が一人で廊下を歩いていた。
目を合わせないよう、真はサッと顔を俯ける。目を合わせただけで絡まれるのではないか、真にとって今井はそんなイメージだった。
真はできるだけ身を縮めて歩き、二人の距離は徐々に近づいていく。
今井のすぐ近くまで来たとき、真は自分の足に足を引っかけ前方にすっ転んだ。
「ぅわあっ……!」
「うお……!?」
前にいた今井を巻き込み、廊下に倒れ込む。
すると気づけば真は仰向けになる今井の股間に顔を埋める状態で倒れていた。
もし相手が女の子だったらラッキースケベどころではない、犯罪レベルのハプニングだ。
しかし相手が今井である以上、別の意味でピンチだ。ぶつかって転ばせて股間に顔を埋めてしまったのだ。怒り狂った今井にボコボコに殴られるかもしれない。
ゾッとして慌てて離れようとするけれど、でも、ふと香った甘い匂いに真は動けなくなる。
堪らなくそそられる、甘くて美味しそうな匂い。
頭がくらくらして、真は酩酊したような状態になる。
この匂いが欲しくて欲しくて我慢できない。そんなよくわからない感覚だった。
欲望のままに求めて、今井の股間にすりすりと頬擦りする。
「おいっ、てめ、なにしてんだ……!?」
怒っているような焦っているような今井の声が聞こえているのに、真は顔を上げられなかった。
鼻を埋めすんすんしたりぐりぐりしたり、ダメだと思っているのに止められない。
「おいこら、いい加減にっ……」
「ご、ごめん、ごめんね、こんな気持ち悪いことして……でも今井くんの匂い、好きで、美味しそうで、欲しくて、僕、僕ぅ……」
「っ…………」
体がぞくぞくする。
この匂いを嗅いでいるだけで体が火照って、下半身に熱が溜まっていく。
ズボン越しに真の頬に触れる今井の股間も、僅かに体積を増していた。
それを感じるとますます興奮して、真はもう自分で自分を制御できない。
忌々しそうな舌打ちが耳に届く。
今井が怒っている。そろそろ殴られるだろう。真はそれを甘んじて受け入れるつもりでいた。殴られれば、きっと正気に戻れる。
「こっちに来いッ」
腕を引っ張られ、近くの教室の中へ引きずり込まれる。
夕日の差し込む教室の床に押し倒され、持っていた鞄が落ちた。
真に馬乗りになった今井が、睨むようにこちらを見下ろしている。
怒気を孕んだ視線にすらぞくりと体が昂り、熱が蓄積していく。
「お前、いつもこうやって男を誘ってんのか?」
「ち、違っ……違うよ、こんなこと、今井くんがはじめてで……」
「はじめて? そんな男を誘うエロい顔しやがって」
「うぅ、ご、ごめん……」
自分の顔は見えないけれど、きっと見苦しいはしたない顔をしているのだ。恥ずかしくて瞳が潤む。
真は慌てて手で顔を隠した。彼に不快な思いはさせたくない。
しかしすぐに顔を覆う手を外されてしまう。
「顔隠すな」
「でも、僕、今変な顔、してるから……僕の顔なんて、今井くんに見せられないよ……」
「いいから、そのエロい顔もっと見せろ。俺のこと、誘惑したいんだろ」
「え……」
そうなのだろうか。そうなのかもしれない。なにせ真はサキュバスなのだ。男を誘惑して精気を奪う、サキュバスなのだから。
「誘惑、したい……今井くんのこと……」
「だったらしっかりエロい顔見せて、誘惑してみろよ」
「でも、僕、はじめてで……どうしたら誘惑できるか、わかんないよ……」
「自分でシャツ捲り上げろ。ズボンとパンツも脱げ」
「うん……」
命令されて、真は素直に従う。既に真はまともにものを考えられない状態だった。
ベルトを外して、ズボンを脱ぐ。下着を下ろせば、頭を擡げたペニスが露になった。
「はっ、もう勃ってんのかよ、俺の股間に顔埋めてそんなになったのか?」
「あ、ご、ごめん……」
真はサッと脚の間を隠した。こんなものを見せたら、今井が気分を悪くするかもしれない。
「ごめんね、気持ち悪いよね……」
「んなこと誰も言ってねーだろ、隠すなよ」
「でも……」
「誘惑するんだろ、さっさとシャツ捲れ」
「う、うん……」
真は下肢から手を離し、シャツを捲り上げて肌を晒した。
当然胸はぺったんこで、下半身には男性の象徴が存在を主張している。
こんな男の体で、誘惑などできるのだろうか。触りたくもないのではないか。
不安に思うが、今井はなんの躊躇いもなく真に手を伸ばしてきた。彼の掌が肌の上を這う。
「んぁんっ……」
「少し撫でただけで、エロい声出しやがって……」
今井の顔を窺うが、嫌悪感を抱いている様子はない。寧ろ興奮したように頬が紅潮している。
ひょっとして自分は、気づかぬ間に魅了 の力を使ってしまったのだろうか。そのせいで今井は誘惑されてしまい、殴ることもなくこうして真に触れているのかもしれない。
だとしたら、あまりにも申し訳ない。この行為は彼の意思ではないのだ。
「あっ、ま、待って、今井くんっ」
止めようとするが、彼の手は離れない。寧ろ更に大胆に触れてくる。
「あっあっあっ、待ってぇ、だめ、だめなのっ」
「なにがだよ、腰くねらせて悦んでるくせに」
今井の言う通りで、真は肌を撫でられる快感に身悶えた。止めなくてはいけないのに、体が快楽に抗えない。もっともっとと求めてしまう。
「あっあっ、はぁんんっ、だめなのに、今井くんに触られるの、気持ちいいっ」
「っくそ、ほんとにはじめてなのかよ、淫乱すぎんだろ……っ」
「あっ、あんっ、今井くん、あっ、ひんっ」
「触ってねーのに、もうチンコびんびんじゃねーか」
「ひゃぅんんっ」
ぴんっと指でペニスを弾かれ、先走りが漏れた。
気持ちいい。でも、体が求めているのは自分の快楽ではない。
「あっ、お願い、今井くんのおちんちん触らせてぇっ」
「っはあ!?」
「触りたいの、お願いっ」
真のはしたないおねだりに、今井は狼狽している。
真はサキュバスとしての本能で行動していた。そこが一番美味しい……体を満たしてくれるものがそこにあるのだと、今井の下半身へ手を伸ばす。
急いた手付きでベルトを外し、下着をずらして性器を取り出した。
勃起した肉棒を見て、真の瞳がとろりと蕩ける。じわりと口の中に唾液が溜まった。
「今井くんの、おちんちん……美味しそう……欲しいよぉ……」
すりすりと、彼の陰茎を撫で回す。
「っくっそ……」
息を乱した今井が、ガバッと真の脚を開いた。
真は彼の下肢から手を離さない。
「お前、ほんとにはじめてなんだろーな!? 今まで何人も男咥え込んでんじゃねーのか!?」
怒鳴るように声を荒げながら、真のアナルに触れる。
「あんっ、僕、ほんとに、はじめてだよぉ……」
「ビッチ顔で煽りやがって…………ん?」
指の腹でアナルを撫でていた今井は、怪訝そうに眉を寄せる。
「なんだよ、これ……お前のケツ、まんこみたいに濡れてんじゃねーかっ」
「ええ……!?」
今井の指の動きに合わせて、くちゅりと濡れた音が真の耳にも届いた。
ぎょっとする真だが、すぐに母の話を思い出した。
サキュバスとして体が変化し、スムーズに性交を行えるようになっていると。
「あっ、ごめんね、今井くんのおちんちん、欲しくて、濡れちゃったの……」
「っはあ!? んだよそのエロい体……っ」
「あぁっ、あっあっあんっ」
「狭いのに、ぐちゅぐちゅに濡らしやがってっ」
「ひあっあっあっ、そんな、指、動かしちゃ、あっあっあっ」
きつく締まっていた肉筒を、指で解されていく。指を増やされても痛みはなく、それどころかどんどん快感が押し寄せてくる。
「んあっ、あっあんっ」
「はじめてのくせに、指でケツ穿られてあんあん喘ぎやがって。チンコも勃ちっぱなしじゃねーか」
「ひぅんっ、んんっ、あっあっあっ」
「とろとろになってるくせに、俺のチンコから手ぇ離さねーしっ」
「ふあぁっ、ごめ、ごめんんっ、僕、気持ちよくてぇっ、今井くんにも、気持ちよくなってほし、んぁっ、あっあぁっ」
「っくそ……!」
中から指が引き抜かれる。追い縋るように絡み付いた肉襞が、物足りなさに疼いた。
「あっ、今井くぅん……っ」
無意識に、甘えた鼻にかかったような声が口から漏れた。
ギリリと歯を食い縛り、今井は真の両脚を開いて抱え上げる。
「手ぇ離せ」
低い声で命じられ、真は名残惜しく思いながらも彼の性器から手を離した。
ビキビキと反り返った肉棒が、綻び蜜を滴らせる後孔に押し付けられる。
それだけで、真の体が期待に震えた。
「媚びた顔しやがって……そんなにこれが欲しかったのかよ……っ」
「んひああぁっ」
ずぶぶぶっと楔に直腸を貫かれる。
その瞬間、真の体は歓喜した。ずっと欲しかったものを与えられ、早く、もっともっとと貪欲に欲しがり、むしゃぶりつく。
「っく……どうなってんだよ、お前の体……中、うねって、すげ……っ」
息を乱しながら、今井は腰を揺する。
硬い男根に腸壁を擦られ、真は嬌声を上げた。
「ああぁっ、あっあっあっ、しゅごい、中、いっぱいになってっ、あっあんっ、今井くんで、いっぱいでっ、んぁっあっ」
美味しくて、渇望していたものを与えられて体が満たされていく。それでもまだまだ足りなくて、肉筒がせがむように陰茎に絡み付く。
「はっ、はあっ、お前ん中、やべっ……奥までぬるぬるで、うまそうにチンコ咥え込んで……どんだけチンコ欲しかったんだよ……っ」
「あっあっあっ、あンッ、ごめ、ごめ、なさっ、あっひぅっ、いっぱい、ほしがっちゃってぇっ、うれひくて、お腹、きゅんきゅんしちゃ、あっひっはぁんんっ」
「っくそ、マジでエロすぎんだよお前……ッ」
何度目かの悪態をついた今井が真の脚を抱え直したとき、ガラリと教室のドアが開いた。
二人は同時にそちらへ顔を向ける。
そこに立っていたのは、同じクラスの佐野 だ。今井とよくつるんでいる。
長めの髪はサラサラで、甘い風貌の彼によく似合っていた。雰囲気は優しげだがチャラチャラした印象で、今井と同様に真が近づきたくないタイプだ。
「おっ、なんか楽しそうなことしてるね」
とんでもない状況を目にしているはずなのに、佐野は特に驚くこともなく、ドアを閉めてこちらに近づいてくる。
「てめっ、なに勝手に入ってきてんだよっ」
今井の怒鳴り声が腹に響いて、真はぴくぴくと震えた。
佐野は飄々とした態度を崩さず、真と今井の傍らにしゃがんだ。
「いーじゃん、別に。せっかくだし、俺も混ぜてよ」
「ざっけんな、帰れっ」
「ひどいなー、今井が全然来ないから捜しに来たのに」
「頼んでねーっ」
「だったら連絡くらい寄越してよ、心配するじゃん。ま、それどころじゃなかったのかもしれないけど」
ニヤニヤと、佐野が真を見下ろす。
一気に顔に熱が上った。羞恥に言葉も出せず、パクパクと口を開閉することしかできない。
「意外だなー、今井ってこういう子が好みだったの?」
「るせーんだよっ、いいから帰れっ」
「やーだよ、こーんな面白い状況なのに、帰るわけないでしょ」
「……チッ」
佐野を追い出すことを諦めたのか、今井は再び律動をはじめた。
中を擦られる刺激に、漸く真は声を上げられた。
「ひあっ、まっ、今井くん待ってぇっ」
「んだよっ」
「やっ、見られちゃ、あっあっ、恥ずかし、からぁっ、も、やめてぇっ」
すっかり飛ばしていた理性が、佐野の登場で僅かに戻ってきた。第三者に見られながら行為に耽ることなどできない。
「こいつのことは無視しろ、いないと思え……っ」
「そんな、あんっ、むりだよぉっ、ひんんっ」
「今井ってばひどいなー。いいよ、俺は俺で楽しむから」
ニヤリと笑って、佐野が手を伸ばしてきた。
露になった乳首を優しく撫でられ、びくんっと体が跳ねる。
「ひぁんッ」
「お、乳首感じるんだ?」
「勝手に触んじゃねーっ」
今井の怒声を無視し、佐野は指の腹で乳首を転がす。
「あっあっあっ、らめっ、そんな、あぁんっ」
「あはっ、乳首コリコリ、気持ち良さそうだね」
乳首の刺激に連動して、直腸が蠢く。
きゅうきゅうと搾り取るような締め付けに、今井は息を詰める。
「くっそ、こっちに集中しろッ」
「あはぁあんんっ」
じゅぼじゅぼと剛直で胎内を掻き回される。
「あっあっ、そんなに、ぐりぐり、しちゃ、あぁんっ、だめ、やあぁっ」
「嫌じゃねーだろ、俺のチンコ欲しかったんだろっ、こうやってぐちゃぐちゃにされたかったんだろっ」
「あぁっ、あっ、嫌じゃ、ない、欲しかったのっ、んあぁっ、今井くんの、おちんちんで擦られるの、ひあぁっ、気持ちいいよぉっ」
ぐずぐずに蕩けた肉壁を抉られ、擦り上げられ、真の思考は再び快楽に支配されていく。
涙を浮かべ甘い声を上げる真の顔を、佐野がまじまじと見下ろしていた。
「うーん……トロ顔めっちゃエロい、これはそそられるね、今井が手ぇ出しちゃったのわかるかも」
佐野は真の顎を掴んで自分の方へ向けさせる。
「おいっ、佐野……っ」
「ごめーん、なんか我慢できなくなっちゃった」
「てめ……ッ」
「お口借りるね」
今井が口汚く喚くが、佐野は意に介さない。
にっこりと微笑んで、佐野は真の眼前に取り出した性器を突きつけた。
「ふぁ……!?」
突然鼻先に現れた立派なものに真は目を丸くする。
しかしその瞳はすぐに蕩けた。
目の前のそれが、欲しくて欲しくて堪らなくなる。
ごくりと喉を鳴らし、薄く唇を開くと亀頭がすりつけられた。途端に口の中に甘い味が広がり、涎が込み上げてくる。
「ははっ、すっごい物欲しそうな顔。お口あーんしてごらん?」
「はぁ……ん……っ」
甘い囁きに抗えず口を開けば、勃起した男根を捩じ込まれた。
「んんんぅ……っ」
喉奥まで突っ込まれ、上げることのできない悲鳴が喉を震わせる。
「あはっ、苦しそうな顔。ああ、奥ぶるぶるしてきもちい……」
「おいこら無茶すんな変態サドっ」
「今井に言われたくないし、自分だってガンガン腰振ってんじゃん」
「いいんだよ、俺はッ、こいつが誘ってきたんだから……!」
「んふぅっ、ふ、んうぅっ、ん゛っ」
口を塞がれ後孔を犯され、苦しいはずなのに、ポロポロ涙はこぼれるのに、真は全く苦しいとは感じていなかった。
鼻を突き抜けるような甘い香り、舌が蕩けるような甘い味、体が満たされていく快感。それらは真に目も眩むような悦楽をもたらした。
自分の体の変化を改めて実感する。男に犯されて悦ぶサキュバスになってしまったのだと。
「はっ、舌遣い拙いのに、俺のちんぽ一生懸命ちゅうちゅう吸ってるね、可愛い」
「んんっ、ふ、ふぅ……っ」
佐野が優しく真の頭を撫でる。
撫でる手付きは優しいが、容赦なく肉棒で奥を突いてくるので、真は嘔吐きながらも必死に喉を動かした。懸命に鼻で呼吸をして、だらだらと唾液を零して陰茎に吸い付く。
「くそっ、こっちにも集中しろッ」
「んうっ、んっんっんっ」
苛立った声を上げ、今井はいっそう激しく腰を振り立てる。
腸壁を抉るような抽挿に、真は全身を震わせて快楽に溺れた。
動きに合わせてプルプルと揺れるペニスからは、ひっきりなしに蜜が流れ落ちている。
もう限界だった。
「ふっ、んっ、ンッ、~~~~~~!」
びくびくっと体が跳ね、ペニスから精が噴き出す。
同時に直腸と喉奥が痙攣したように震え、咥え込んでいた二人の剛直をきつく締め上げた。
「ぐ、くそっ、出る……ッ」
「はっ、あっ、すご……っ」
今井と佐野は締め付けに促されるように射精する。
二人分の精液が、一気に上と下から注がれた。
その瞬間、真は全身が満たされるのを感じた。頭のてっぺんから爪先まで、痺れるような愉悦が駆け抜ける。
真は喉を鳴らして精液を飲み干し、胎内に吐き出された分も腸壁を締め付けて味わう。
甘くて、美味しくて、気持ちいい。
これが、精気を食べるということなのだ。
一度味わえば病み付きになり、知らなかった頃には戻れない。
そんな感覚だった。
放心状態の真から、二人の陰茎が引き抜かれる。
焦点の合っていない真の顔を、今井が真上から覗き込んだ。
「お前、大丈夫かよ?」
「あ……うん……」
陶然とした表情で、こくりと頷く。
力の入らない真の体を、佐野がゆっくりと起こしてくれた。
真は落ちていた鞄からティッシュを取り出し、汚れを拭く。
そうしている間に、ほわほわしていた頭が徐々に理性を取り戻す。
下半身丸出しの状態なことを思い出して慌ててパンツを手に取ったとき、教室のドアが開いた。
三人一斉に顔を向ける。
そこに立っていたのは、一人の男教師だった。顔は知っているが関わりのない先生なので真は名前を知らない。
こちらを見ている教師の顔はどんどん蒼白になっていく。
見た目不良の生徒に挟まれた、下半身剥き出しの平凡な生徒。
恐らく教師は真っ先にいじめを疑ったのだろう。
「お、お、お、お前達、な、な、なにを、そそ、その子から離れろ!!」
上擦った声で今井と佐野を責める教師を、真は慌てて遮った。
「やめてください!」
ふらつきながらも、教師の近くへ駆け寄る。
「誤解です、二人はなにも悪くありません!」
「なな、なにを言ってるんだ、まさか脅されているのか!?」
「違います! 僕が二人を誘惑したんです!」
「なっ……」
サキュバスの自分が、無意識とはいえ魅了 を使って二人を誘惑して精気を奪ったのだ。そうでなければ、二人が地味で平凡で男の真を相手にするわけがない。
精気を奪った上に、自分のせいで二人が責められるなんて、そんなことは絶対に阻止しなければならない。
絶句する教師を、真は涙の滲む目で見上げる。
「だから悪いのは僕で、二人は被害者なんです!」
信じられないような顔で真を見ていた教師の目の色が変わっていく。血走り、ギラつく双眸が舐めるように真を見る。
はあはあと荒い息を吐く教師に、真は不穏なものを感じて離れようとした。しかし、教師に肩を掴まれて動けなくなる。
「せ、先生……?」
「そうか、悪いのはお前なんだな……」
「は、はい……」
「だったら、先生がお仕置きしてやらないと」
「ええっ……」
「はあはあっ、二人も男を誘惑するなんていけない子だ、もう二度と誘惑できないように、厳しく躾る必要があるな、はあはあっ、覚悟しなさいっ」
「ひっ……」
ぐっと顔を近づけられ、真が恐怖に身を縮めたとき。
「キモいんだよ、変態教師が!」
「ぐえっ……!?」
今井に脇腹を蹴り上げられた教師が目の前で吹っ飛んでいく。
ポカンとそれを見ていた真に、佐野がズボンを差し出した。
「ほら、早くパンツとズボン履いて」
「あ、は、はい……」
真は戸惑いながらも下着とズボンを身につけた。
履き終わると、ぐいっと今井に腕を引かれる。
「おら、行くぞ」
「えっ、で、でも、先生……」
「いーのいーの、早く早く」
真の鞄をしっかり回収した佐野に背中を押され、教室を出た。
すっかり日が落ち、人気のなくなった廊下を三人で駆け抜ける。
少し前までふらふらだったのに、精気を食べたお陰か真の体力はすっかり回復していた。あんなことをしたばかりなのに、寧ろ元気になっている自分の体がなんだか不思議だった。
こうして、真のサキュバスとしての新たな生活ははじまったのだった。
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