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第2話
朝、家を出ようとした真 は母に声をかけられ振り返る。
「真、これを持っていきなさい」
そう言って渡された小箱を受け取る。
「なにこれ?」
「コンドームよ」
「ええ!?」
真はぎょっとして手の中の小箱を落としそうになる。
「な、な、なんで、こんなもの……」
真っ赤になって狼狽える真に、母は真面目な顔で言う。
「大切なものでしょう? 確かに真は男だから妊娠はしないけど、衛生的に考えて付けるに越したことはないもの」
「で、でも、つ、付けたら、精気、食べられないんじゃ……」
「いい? サキュバスのご飯は精液じゃなくて精気なの。確かに直接体内に受け入れた方が美味しいけど、ゴム越しでも充分に精気は食べられるわ」
「そ、そうだったの……」
「甘いと感じるのも、精液の味じゃなくて精気が甘いのよ」
「そうなんだ……」
あの蕩けるように甘い匂いと味は、精気だったのだと納得した。サキュバスだから感じることのできるものなのだろう。
「自分のためにも相手のためにも、ちゃんと使いなさいよ」
母の言葉に頷き、真は小箱をポケットにしまった。
母に見送られながら家を出る。
精気を食べたことを、母には既に知られていた。真がなにも言わなくても、母にはすぐにわかったようだ。
しかし、精気を食べられたのは偶然だ。気づかない内に魅了 を使って誘惑してしまったからだ。
きっと、もう二度と今井が手を出してくることはないだろう。
だから、コンドームを使う機会などないのではないか。
しかし、また無意識に魅了 を使ってしまう可能性もある。そのときのために持っている必要はあるのかもしれない。
真は小箱をポケットの奥にぐっと押し込めた。
昼休み。いそいそとお弁当を出した真 を、今井が呼んだ。
「おい、真。弁当持って一緒に来い」
真はポカンと今井を見上げた。
彼が真の名前を、しかも名字ではなく下の名前を知っていたことに驚き、そして声をかけられたことにも驚いた。
登校してから今まで、一言も言葉を交わしていなかったのに急にどうしたのだろう。
疑問に思うが、すぐに思い当たる。
教室を出ていく今井の後を慌てて追いかけた。
すたすたと廊下を進む今井の背中に声をかける。
「ま、待って、今井くんっ」
「あ?」
振り返る今井に、真は謝った。
「ご、ごめんね、僕、今あんまりお金持ってなくて……パン二つくらいしか買えないと思うけど、それでもいい?」
「…………なんの話だよ」
「え? 僕にパン買ってこいってことだよね?」
「んなことするかよッ」
「えっ、違うの!?」
てっきり、昨日のことで怒っていて真をパシリにしようとしているのかと思ったのだが。よく見たら、彼はパンが数個入ったビニール袋を持っていた。
今井は憮然とした表情で舌打ちする。
「いいからついてこい」
吐き捨てるように言って、また背を向け歩き出す。
勘違いしてしまったことを申し訳なく思いながら、真は彼の後を追った。
連れてこられたのは、麻雀部の部室だった。今井は麻雀部に所属している。
ここは部室という名の溜まり場で、部活動など一切行われていない。狭いけれどソファやテーブルが置いてあり、なかなか快適に過ごせそうな空間だ。
「あ、あの、僕、入ってもいいの?」
「いいから早く入れ」
「は、はい……っ」
ドアを閉めて中に入り、促されるまま今井と並んでソファに座った。
「え、えっと……」
「食えよ、飯」
「え、あ、うん……」
パンの袋を開ける今井に倣い、真も持ってきた弁当を開ける。
一体これはどういう状況なのだろう。
今井と二人きりで食事をしている意味がわからない。
緊張でガチガチの状態で弁当を食べ進めた。
食べ終わったらどうなってしまうのだろう。殴られたりするのだろうか。脅されるかもしれない。
なにもされない、ということはないだろう。なにかをするために、ここまで連れてきたのだから。まさか食事だけで終わるわけがない。
どんどん考えが不穏な方向へ流れ、食事に集中できなくなる。
そして真は喉を詰まらせた。
「ぅぐっ……」
おかずを飲み込めず、喉を押さえて呻く。
そういえば飲み物を持ってくるのを忘れていた。これでは流し込むことができない。
「お、おい、大丈夫か……!?」
「んぐぐ……っ」
今井は突然呻き声を上げた真に驚き、状態を見てすぐになにが起きたのか気づいたようだ。
やや乱暴に真の背中を叩きながら、水の入ったペットボトルを渡してくれる。
「ほら、やるから飲めよ」
「うぅ……っ」
遠慮している状況ではなく、真は水をごくごくと喉へ流し込んだ。漸く詰まっていたおかずも一緒に流れていった。
「げほっ……かはっ……」
「大丈夫か?」
「う、うん……ありがとう……」
滲んだ涙を拭いながら礼を言うと、今井はふいっとそっぽを向いた。
「気を付けろよ、アホ」
「うん、ごめんね」
口調は乱暴だが、彼が真を心配してくれているのは伝わってきた。
真から見た今井は不良で、絶対に近づきたくないタイプの人間だ。でも、今は、彼を怖いとは思わない。
そういえば、小学生のときは普通に会話もしていた気がする。
小学校低学年のときに同じクラスで、親しいわけではなかったが、クラスメイトとして接していたはずだ。
高学年になってクラスが離れれば話すことはなくなっていたが。
中学ではずっとクラスが違ったので接点は全くないままだった。
そして高校生になって、またこうして同じクラスになったが、あの頃と今では随分変わってしまった。
クラスは同じでも、きっと一言も交わすことなく終わるのだろうと思っていたのに。
まさか、あんなことになるなんて。
ついつい記憶が蘇り、真の顔は真っ赤に染まった。
サキュバスとしてのはじめての食事はあまりにも甘美で、思い出すだけで体が熱くなる。
お腹の奥がきゅんと疼く。
真は無意識に太股を摩り合わせた。
甘くて、美味しくて、気持ちいい、あの感覚をまた味わいたくて堪らなくなる。
「おい」
手首を掴まれ、ハッと顔を上げる。
今井がこちらをじっと見つめていた。
熱を孕んだ彼の双眸と目が合い、それだけで一気に体温が上がった。
「なんつー顔してんだよ」
「え……? あ……」
いつの間にか空になっていた弁当箱を取り上げられた。今井がそれをテーブルに置く。
「あ、あの……」
「発情した、エロい顔しやがって」
「えっ……!?」
真は隠すように顔を伏せた。
変なことを思い出してしまったせいで、はしたない表情になってしまっていたようだ。
「あああの、僕、もう、教室に……」
これ以上変な気分になる前に、今井から離れなくては。
しかし、今井は握った手首を離してくれない。もう片方の手で真の顎を掴み、強引に顔を上げさせられる。
「そんな顔でうろうろ歩き回って、男を誘惑するつもりかよ」
「ちちち違っ……」
否定したいが、でも、今井のときのようなことがまた起こってしまう可能性は否めない。急に発情したみたいになって、無意識に魅了 を使って、男を誘惑してしまうかもしれない。
「ど、どうしよう、僕、今井くんにしてもらったこと思い出して、体が熱くなって……誘惑したくないのに、体、むずむずして、どうしたらいいのかわかんなくて……」
泣きそうな顔で今井に助けを求めてしまう。
すると「ぐっ……」と苦しそうな声を上げた今井に、次の瞬間にはソファに押し倒されていた。
心なしか頬が赤い今井の顔を見上げる。
「い、今井くん……?」
「誘惑したくないんだろ」
「うん……」
「だったら、俺がしてやる。むずむずすんのが治れば、誘惑しなくて済むだろ」
「え、でも、いいの、今井くん、僕なんかと……」
今井の申し出は真としてはありがたいが、彼は嫌ではないのだろうか。
「嫌だったらこんなこと言わねーよ」
「で、で、でも……」
「もう黙ってろ」
話を遮るように、真の制服を捲り上げる。
もしかして自分はまた、気づかぬ内に彼に対して|魅了《チャーム》を使ってしまったのだろうか。
不安に思うけれど、肌に直接触れられ、思考がまともに働かなくなる。
今井の指が胸元を撫で、乳首に触れた。
「あンッ」
甘い声が漏れ、羞恥にカッと熱が上がった。
声を我慢したいのに、今井の指はまるで声を引き出させるかのように胸の突起を執拗に嬲る。
「あっあっ、今井く、そこ、だめぇっ」
「ダメじゃねーだろ、佐野に弄られて散々感じてたくせに」
「ひゃぅうんっ」
きゅうっと摘ままれ、僅かな痛みが強烈な快感となって襲いかかってくる。
すっかり固く尖ったそこを、今井が指でくにくにと捏ね回す。
「あっ、らめ、ひぁっ、あっあっ」
「気持ちいいんだろ?」
「んっ、うん、きもち、いっ、よぉ、あぁんっ」
「はっ、えっろい声……。腰も揺らして、もうズボンパンパンじゃねーか」
指摘されて、真は自分の現状に気づいた。
はしたなく腰を浮かせ、ズボンの上からでもわかるほどにペニスを膨らませていることに。
「ふぁっ、あっ、ごめ、なさ、あっあっ、今井くんに、胸、触られて、気持ちよく、なっちゃ、あぁっ」
「俺に触られんの、そんなに気持ちいいのかよ?」
「んんっ、きもちぃのっ、今井くんに、乳首、されるの、いいよぉっ」
「っ……だったら、もっと気持ちよくしてやる」
僅かに息を乱した今井が、ペロリと乳首を舐めた。
「ンあぁっ」
ぐりぐりと舌先で乳首を押し潰され、真は快感に身悶えた。
背中が反って胸を突き出すような格好になり、「エロ……」と呟いた今井はニヤリと笑って乳首に吸い付いてきた。
「ひあぁああっ、あっあっ、あんっ」
口に含まれた突起を吸われて口の中で転がすように舌で弄ばれ、真は首を振り立ててよがった。
「あっあっあっ、ま、待って、だめ、今井くんっ」
「んだよ」
「汚しちゃうから、ズボン、脱がせてぇっ」
もう既に、滲み出た先走りで下着が濡れてしまっている。
「乳首だけでイきそうになるとか、ほんと淫乱だな」
興奮した様子でそんなことを言いながらも、今井はズボンを脱がしてくれる。
真が言ったのは今井に脱がせてほしいという意味ではなく、脱いでもいいかという確認だったのだが、訂正する間もなく下着まで足から引き抜かれた。
「ここももう濡れてんじゃねーか」
そう言って、今井が触れたのはペニスの下にあるアナルだ。どうやら精気を欲しがって体液を分泌させているようだ。
「少し触っただけでヒクヒクして、チンコねだりやがって」
「あっ、ごめんなさ……」
はしたないとわかっていても、物欲しげに後孔が開閉するのを止められない。自ら脚を広げて腰を浮かせ、痴態を晒して彼を求めた。
「今井くぅん……」
「っ……そんなに欲しいのかよ、俺のチンコ」
ごくりと喉を鳴らして今井が尋ねる。
真は躊躇いもなくこくこく頷いた。
「欲しいの……今井くんの、おちんちん、僕の中に、入れてほしい……」
「チンコ欲しいとか、ビッチみたいなこと言いやがってっ」
声を荒げた今井が、後孔に指を差し込んでくる。
「っくそ、奥までぐちょぐちょに濡らして……どうなってんだよ、この体……っ」
「あんっ、あっあっあっ」
「ケツ穴穿られんのそんなにいいのかよ」
「いいっ、気持ちいいの、あっあぁっ、今井くんにぐちゅぐちゅされるの、気持ちいいよぉっ」
掻き回され、悦ぶように腸壁が今井の指に絡み付く。
すっかり綻んだアナルが、今度は物足りなさに疼いた。
「ふぁっ、あっ、お願い、今井くんも気持ちよくなって、んぁっ、一緒に気持ちよくなりたいのっ」
「俺のチンコで、中擦ってほしいのか?」
「うん、うんっ、今井くんの、おちんちんでしてぇっ」
「マジでエロいな、お前」
濡れた音を立てて指が引き抜かれる。思わず追いかけるように腰が浮いてしまい、「チンコが欲しいんだろ」と今井に笑われた。
張り詰めた彼の性器が取り出されるのを、じっと見つめる。
勃起したそれを目に映しただけで涎が口の中に溜まり、お腹の奥がきゅんきゅんと蠢いた。
しかし、真はそこで大事なことを思い出し体を起こした。
「今井くん!!」
「っ……なんだよ、急に。今、入れてやるって」
「入れる前に、これ……っ」
真はソファの下に落ちていたズボンのポケットから、今朝母に渡された小箱を取り出す。それを今井に差し出した。
「これを使って!」
今井はそれを見て、目を見開く。
「おま、お前、なんつーもんポケットに入れてんだよ……しかも箱ごととか……」
彼の反応に、真は変なことをしてしまったのかと不安になる。
「だ、だって、大事なもの、だから……」
「こんなもん持ち歩いて、誘惑したくないとかぬかしてたのか」
「ご、ごめんなさい……誘惑したくないけど、僕、淫乱で……」
誘惑したくないのは事実だ。でも、サキュバスの本能が男を誘惑してしまうのだ。自分で自分を制御できなくなる。
じわりと瞳に涙が浮かんだ。
泣きそうになっている真に、今井がぶっきらぼうな口調で言う。
「だったら、これからはチンコ欲しくなったら俺に言え」
「えっ……?」
「俺が嵌めてやる」
「そんな、申し訳ないよっ」
「うるせーっ、俺がいいつってんだろッ」
「わっ……!?」
起こした体を再び押し倒される。
今井は真の手から小箱を取り上げ、中身を取り出し素早く装着した。そして真の脚を抱え上げ、下肢を寄せる。
後孔を亀頭で擦られ、真の顔がとろんと蕩けた。
欲しがってヒクヒクと収縮するアナルに、ずぷ……っと肉棒がめり込んでくる。
「んあぁあっ」
「っく、きつ……」
狭い肉筒を掻き分けるように、剛直が奥へと押し込まれていく。
気持ちよくて、美味しいと感じるけれど、ゴム越しのせいかなんとなく物足りない。その物足りなさを埋めるように、腸壁が蠢動し肉棒に絡み付く。味わうように締め付け、吸い上げる。
「っは、すげ、中、動いて……ヤバ……チンコ、マジで食われてるみてーっ……く」
今井は歯を食い縛り、快楽に耐えているようだ。
真の腰を掴み、低く呻きながら更に奥へと陰茎を突き入れる。
「ひあっ、あっ、おっきいの、奥、入って、あっあっ」
前よりも深く入り込んでくる剛直を、真は目を見開いて受け入れた。今井は前回、あまり奥まで入れずにいたようだ。
「くそっ、お前ん中、気持ちよすぎんだよ……ッ」
快楽に上擦る声に、嬉しくなる。連動して、腸壁がぎゅうぎゅうと男根を締め付けた。
「はっ、ぅ、くっ、締めんなっ」
「んんっ、ごめ、あっ、今井くんが、気持ちよくなってくれて、あんっ、嬉しくて、ひ、あぁっ」
「くっそ……煽んなっつーのっ」
ぐちゅんっと、楔で奥を貫かれた。
浮いた爪先を揺らしながら、快楽に耽溺する。
与えられる快感と同時に、今井が快感を感じることによって、更なる快感がもたらされるのだ。母の話では、相手が快感を得ることで発する精気を食べ、それが真に快感となって伝わる。
だから相手が感じれば感じるほど、真は深い快楽に溺れることになるのだ。
二人分の快感を得ているような状態だった。
「あっ、はぁんんっ、今井、く、んっ、んあぁっ」
「はぁっ、真……っ」
抽挿を繰り返しながら、今井が上体を傾けてくる。
二人の距離が近づいていく。
熱っぽい彼の瞳が真を見つめ、その視線に胸がドキドキと高鳴った。
真が彼に向かって手を伸ばしかけたとき。
ガラリと部室のドアが開いた。
二人は動きを止め、同時にドアの方へ顔を向ける。
そこにいたのは同じクラスの上原 だ。彼はじっとこちらを凝視したあと、ドアを閉めて何食わぬ顔でこちらに近づいてきた。
「どいつもこいつも……」
今井はわなわなと肩を震わせ、怒鳴った。
「おいこら上原! 普通に入ってきてんじゃねー! 状況見ろ、空気読め! てか昼は部室来んなっつといただろーがっ」
「……悪い、忘れてた」
少しも悪びれる様子もなく謝って、上原は真の頭上、ソファの余ったスペースに座った。
「なに座ってんだ! 出てけっつーの!」
「やだ。もう移動するの面倒くさい」
そう言って、まるで当然のことのように上原はそこで昼食をはじめた。
上原は麻雀部の部員なのでここに来ること自体はなんら不思議はない。因みに麻雀部は今井と佐野と上原の三人しかいない。三人はよく一緒に行動している。
上原は男らしい精悍な顔立ちをしている。三人の中では一番体格がよく、がっしりしていた。体育会系の雰囲気なのに、今井や佐野のようなタイプの違う生徒とつるんでいるのが不思議だった。
いつも表情があまり変わらずなにを考えているのかわからないが、正に今もそういう状況だ。
「上原っ」
「別に今井の邪魔はしない」
「っ……くそ」
佐野のときと同様、追い出すのを諦め今井は行為を続行しようとする。
「ひぁっ、ま、待って、だめぇっ、今井くん、やめてぇっ」
「やめられるわけ、ない、だろ……ッ」
「んひああぁあっ」
激しく腸壁を擦られ、あられもない嬌声が口から漏れる。
真が慌てて口を塞ぐと、それを咎めるように今井が奥を突き上げる。
「んんぁっ、あっあんっ、ん、ううぅっ」
「口塞ぐな、声聞かせろ」
「やぁっ、恥ずかし、声、上原くんに、聞かれちゃ、あっあっ、んんんぅっ」
「こいつは置物だと思え」
「むり、だよぉっ、あんっ、んんっ」
「いいから、こっちに集中してろっ」
敏感な箇所を亀頭でごりごりと擦られ、強烈な快楽に真の思考は蕩けていく。
「ふあぁっ、気持ち、いっ、今井くんの、おちんちん、擦れるのっ、気持ちいいよぉっ」
「あー、中、すげ、ぐちょぐちょ……はっ」
「んあっあっあぁっ」
首を反らせると、こちらを見下ろす上原と目が合った。
彼は感情の読めない無表情で真の顔を凝視している。
快感に歪んだ顔を見られていたことに気付き、真は激しい羞恥に襲われた。慌てて手で顔を隠す。
「んやあぁっ、上原く、見ないでぇっ」
「真っ、そいつは置物だっつっただろ!」
「そん、な、あっ、あっ、だって、んんっ」
すぐ傍にいてひしひしと視線を感じるのに、意識するなと言うのは無理だ。
恥ずかしくて泣きそうになっていると、顔を隠していた手を上原に引き剥がされた。
びっくりして、思わず上原を見上げる。
「う、上原くん……?」
「顔、隠すな」
「えっ……」
「上原っ、邪魔しねーんじゃなかったのかよ!」
「今井の邪魔はしてないだろ」
「存在が邪魔だっつーのっ! てか、そいつに勝手に触んな、見んなっ」
「やだ」
今井とのやり取りの最中も、上原は真から片時も目を離さない。
恥ずかしくてぎゅっと目を瞑れば、上原にカリカリと優しく喉を引っ掻かれた。
「ひあぁんっ」
その刺激に、背中を仰け反らせながら目を見開く。するとまた、こちらをじっと見つめる上原と目が合った。
「目、瞑るな。俺を見てろ」
「そんな、あっ、恥ずかしぃ、よぉっ」
真は何度も目を閉じるが、そのたびに喉を指先で擽られ、目を開けばまた上原の視線が絡み付く。
「っくそ、佐野といい、こいつらマジで……」
苛立ちを孕んだ呟きを漏らしつつ、今井は一層腰の動きを速くする。
「あっあっあっ、らめっ、そんな、しちゃ、あぁっ、もう、いく、いっちゃうよぉっ」
「イけよ、俺のチンコで、イけッ」
「あっ、ひ、あっあっあっ、あ────っ!」
ずんっと奥を突かれ、真は上原と目を合わせながら絶頂に達した。射精しているときのはしたない顔を瞬きもせずに見つめられ、羞恥と、ぞくぞくするような感覚が込み上げてくる。
絶頂の余韻に浸る余裕もなく肉棒で中を擦り上げられ続け、真はずっといっているような状態になっていた。
「ひゃあぁあんっ、いって、いった、のにっ、またいって、あっあっ、ずっと、いって、止まらな、あっあっあっ、んっ、ああぁっ」
「はっ、はぁっ、すげ、いいっ、真、俺も、イくッ」
「んんぁっ、はっ、ん~~~~っ」
ゴム越しに、今井の精が吐き出される。それを感じて、真もまた吐精した。
蕩けるような快楽と、甘美な精気に身体中が満たされる。
真はうっとりとそれを味わった。
その顔もずっと上原に見られていた。
真と今井は荒い呼吸を繰り返し息を整える。
やがて、陰茎が引き抜かれた。
今井が真から離れ、ゴムを処理している。その間に、上原が真の脇に手を入れぐったりする体を持ち上げた。
突然のことに驚き固まる真を、上原は自身の膝の上に乗せる。真は彼に跨がる体勢になった。
「上原、てめ、なにしてっ……」
今井が喚いているが、上原はそれを無視して真だけをじっと見ている。相変わらず、なにを考えているのかわからない顔で。
「可愛いな、お前」
そんなことを呟いて、双丘の狭間に硬いものを押し付けてくる。
ぎょっとして視線を落とすと、いつの間にか取り出していた彼の剥き出しの男根が目に入った。勃起したそれが、蜜の滴るアナルに宛がわれる。
途端に痺れるように甘い匂いと味を感じ、抵抗する気持ちなど削がれていた。
「上原っ……」
今井が声を荒げて上原を呼ぶが、まるで聞こえていないかのように、彼は腰を突き上げた。
ぐぷ……っと太い亀頭が埋め込まれる。
「ひあっ、あっ、はひっ、ひうぅんんっ」
すっかり綻んだ後孔は、抵抗もなく剛直を飲み込んでいく。
「はっ、すごいな、吸い込まれていく……っ」
熱い吐息を漏らしながら、上原は絡み付く肉襞を堪能するように腰を回す。
「んああぁっ、ぐりぐり、しちゃ、あっあぁっ」
「気持ちいい……熱くて、とろとろで……でも、きつくて、締め付けられる……」
上原は興奮したように、はあっと荒い息を吐く。
彼が感じているのが伝わってきて、真の体も歓喜に震える。
「上原テメ、なにしてくれてんだっ」
「だって可愛かったから」
「だってじゃねー!」
今井が怒りで顔を赤くしながら、真横で怒鳴り散らしている。
「真、テメーもテメーだ! 俺にはゴムつけさせて、そいつには生でさせんのか!」
「あうっ、だ、だって、あっ、いきなり、だったからぁっ、あっあんっ」
そもそも上原にこんなことをされるとは思ってもみなかった。もしかして自分はまたやってしまったのだろうか。上原にまで魅了 を使ってしまったのか。
真は今更ながら上原を止めようと、彼の腕をきゅっと掴んだ。
「あっ、ひぅんっ、らめ、だめだよ、上原くん、んあっ、僕と、こんなこと、しちゃ、あっあぁんっ」
「可愛い……」
人の話を聞いているのかいないのか、上原はぼそりと呟き、真の顎を持ち上げ口付けた。
「んんっ……!?」
「上原っ、おま、やめ、俺もまだっ……」
狼狽したような今井の声を横に聞きながら、はじめてのキスに真も戸惑っていた。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて唇を重ねられ、それからぺろりと舐められる。僅かに開いた隙間から舌を差し込まれ、真はびくりと肩を竦ませた。
とろりと蜂蜜のように甘い味が口の中に広がる。
あまりにも甘美で、もっともっと味わいたくて堪らない。
気づけば真は自分から上原の舌に舌を絡め、夢中になって口付けていた。
陶酔したように、真の瞳はとろんとなる。
キスを交わしながら胎内を突き上げられ、体は浅ましく快楽を貪った。
不意に、たらたらと蜜を零すぺニスを握られ、真の体がびくんっと跳ねる。唇が離れた。
上原は握ったぺニスを優しく擦り上げる。
「あぁっ、だめ、触っちゃ、あんっ、上原くんの、手、汚れちゃうからぁっ、んあぁっあっ」
「汚してもいい。手の中でぷるぷるして、可愛いな」
わけのわからないことを言って、上原は決して手を離してくれない。
もう一度離してと訴えようとするが、その前に今井に顎を掴まれ強引に横に向けさせられた。憮然とした彼の顔が目の前にある。そして今度は今井に唇を奪われた。
「んふぅっ、んん……っ」
唇を食べられてしまうかのような激しいキスは、真に強い快楽をもたらした。
動き回る舌に口の中を舐め尽くされる。
甘くて美味しい口づけに、真は抵抗することなく口内を明け渡した。流れ込む唾液を喉を鳴らして嚥下する。
離れていく唇を、真は口を開けて涎を垂らしながら名残惜しげに見つめた。
情欲の滲む獰猛な今井の瞳と目が合った。
「っは、エロい顔しやがって……またすぐに俺のチンコ嵌めてやるっ、今度は中に出すからなっ」
「あンッ、だめ、だめなのぉっ」
真がふるふるとかぶりを振れば、今井は不機嫌そうに眉を顰める。
「ああ? なにがダメだよ淫乱が」
「だって、もう昼休み終わっちゃうから、んんっ、授業、はじまっちゃ、あぅんっ」
「んなもん、サボればいいだろ」
「だめぇっ、僕、べんきょ、ついていけなくなっちゃうからぁっ、あぁんっ」
真はぐすぐすと鼻を啜る。
平凡な頭脳の持ち主である真は、真面目に授業を受けなくてはすぐに置いていかれてしまう。
「お願い、許してぇっ」
「泣かせるなよ、今井」
「っ、っ、っくそ、放課後、覚悟しとけよっ」
「んむぅんんっ」
ぶつかるような勢いで、再び唇で唇を塞がれた。
今井に口腔内を蹂躙されながら、上原に胎内を犯される。
舌を絡ませ合う濃厚なキスに酔いしれつつ、優しい手付きでぺニスを扱かれ、固く反り返った陰茎に肉筒を擦り上げられ、与えられる快感の多さにくらくらした。
「んんぁっ、あんっ、んんっ」
「真、もっと舌伸ばせ」
「んちゅっ、ンッ、はぁ、んんんっ」
「もうイきそうか? 中、すごいうねってる」
「んーっ、んはぁ、ん、ふうぅんっ」
今井に舌を吸われ、上原の剛直に奥を突き上げられ握られたぺニスを擦られ、すぐに限界がやってくる。
「んっ、んっ、ぁんんっ、ん~~~~っ」
真は三度目の射精をした。ぴゅくっと噴き出した体液を、上原の掌で受け止められる。
「はあっ、可愛い……俺もイく、中に出すよっ」
上原の熱を帯びた囁きが耳に吹き込まれる。
ごちゅっと、一際激しく最奥を貫かれ、熱い精液を注がれた。甘くて美味しい快感が身体中に行き渡る。
充足感に、真はぶるぶると全身を震わせた。
ねっとりと糸を引きながら、今井は唇を離す。
唾液が彼の口の端から零れ、真は無意識にそれを舌で舐め取った。
すると今井の顔がカッと赤く染まる。
「おまっ……」
「?」
「おあずけさせといて煽るとか、マジで放課後覚えとけよ、帰さねーからなっ」
「え……?」
快感の余韻にぼんやりしていた真は、今井の言葉に首を傾げる。
上原がぎゅっと真に抱きついてきた。
「はあ……可愛い……」
「上原! テメーはいい加減そいつから離れろ!」
「やだ。離したくない」
「抱きつくな!」
「やだ」
「チンコ抜け!」
「やだ」
二人のやり取りに、真は思わず笑みを零した。
しかし笑っている場合ではなかった。昼休みがもうすぐ終わる。
なかなか離そうとしない上原の腕から、今井に協力してもらって抜け出し、急いで衣服を整え、どうにかこうにか授業に間に合った。
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