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TOPOP1【トッポサイド】
準備が整った僕らはワーゲンバスに乗り込む。
運転はジョニー。
「どこに行くん?」
薄い黄色のニットと白いパンツを履いている由希仁(ゆきじ)が不思議そうに首を傾げている……バリかわええ。
もちろん、僕のコーディネート♪
「いつも行ってるデパート。なんでもあるから由希仁もたのちいと思うよ」
ふふっと笑う僕。
僕が声を出して笑うなんて、久しぶり過ぎる。
やっぱり、隣に由希仁がいるからかな。
ああ、夢みたい。
脳に野球ボールくらいの腫瘍があった時は死を覚悟したし、会えないって完全に諦めてた。
むしろ、天国で会えるんじゃないかってベッドで妄想してたくらい。
リハビリも大変でドン底だったけど、今になっては良い経験なのかもな。
由希仁と再会するための伏線とか。
ああ、ネガティブ思考がふっ飛んだ。
ずっと僕の天使だね、由希仁。
なんて幸福に満たされて天を仰いでたら、クスッと笑うかわいい声が聞こえてきた。
「えっ? やっぱ僕……変やったかな」
恐る恐る由希仁の顔を見ると、デコピンされた。
「あでっ!」
間抜け過ぎて、自分じゃないような声が漏れる。
「嬉しいに決まってんじゃん、カチン」
ニヒッと小悪魔のように笑う由希仁。
黒い短髪のイケメンに急になっちゃったけど、ズレているえくぼが変わらないからちゃんとわかる。
いや、もっと愛おしいんだ。
「これからも俺の前でたくさん幸せそうな顔してくれよな」
ああ、敵わないな。
「そういえば、ガムに勝ったって言ってたけど、どうやって勝ったの?」
「それ、俺も気になってたわ……」
後ろに座っていた白地に黒い文字が書いてあるシャツに黒と白の布地の上着、黒のパンツを履いたアーセナルがぼそっとつぶやいた。
いつもは暗い雰囲気を纏ってるから、僕はあんま話したことないんやけど。
なぜか、由希仁には穏やかな雰囲気へ変わるんよな。
「オリジナル技……突きを全部払って相手を横に回す技と背負い投げを組み合わせたやつをかけた」
自信なさげに小さく言う由希仁。
「めっちゃ強いやん……」
僕はようわからんかったけど、アーセナルはわかったみたい。
いつも長い横髪をガシガシしてるんだけど、その右手が止まって目を見開いていたから。
さすが、戦闘班やな。
「へぇ~あのガムを投げたんやぁ。すごいやん、ユキ」
運転しているジョニーも褒める。
ジョニーは色仕掛けをして情報集めをするからコミュニケーション能力と人当たりはめっちゃいい。
でも、たぶん……適当に返したな。
いや、すごいんやで!?
児童養護施設で一番強い少林寺拳法の使い手に勝ったんだから。
でもな、次元が違うから実感はないんよ。
「カチンも……そう思うん?」
上目遣いで言われたから、大きく3回うなずく。
「うん、勝ったよ。うーくんに」
3人で褒めたから、由希仁は今度は少し自信を持って笑った。
「あ、そうだリン……明日から回し蹴り特訓な」
「なんでなん!? 俺の回し蹴りどっか変?」
慌てたようにミラー越しにこっちを見るジョニー。
「ちゃうわ。極めたらたぶん相当な武器になると思うからさ」
由希はじっと見つめて、ニッと笑う。
「なんかあった時に長い脚で闘えたら……俺、惚れちゃうなぁ」
「あっ、そう。ちょっとなら、やるよ」
ジョニーは珍しく戸惑った上に顔を赤くしていた。
いや、イケメン潰しちゃあかんよ笑
「トッポもやで」
「えっ、僕も!?」
僕はびっくりして由希仁の顔を勢いよく見る。
すまし顔が、僕の顔を見てニヤニヤに変わる。
「脅された時にも上手く技をかけて倒せるようにならんと……もっとかっこいいカチンが見たいな」
僕はドキドキで苦しくなったからアーセナルに助けを求めた。
「俺、ガンナーやから」
鼻で笑われたけど、銃なくなったらあかんやんか。
「そう、ちっぐはええの。じゃ、 リンもカチンも明日から6時に稽古場集合やで!!」
僕とジョニーはそれを聞いては~いと気だるく言った。
「俺とあんなことやそんなこと……うふっ」
嘘だと思ってても、期待してしまう。
由希仁は恋を知らないから。
そんなことをやっているうちにワーゲンバスはいつものデパートに着いた。
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