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第11話
何がなんやら整理の出来ないまま、至近距離の綺麗な顔に向かってコクコクと頷いた。すると彼は満足そうな笑顔を浮かべて、
「やはり君はいい人だね。初めて電話越しの声を聴いたときから思っていたんだ」
さわり、と冷たい何かが軽く下顎に触れる。それが彼の細い指先だと判った瞬間、ふう、と甘やかな香りが近づいてきて……、
――、ちゅくっ。
「うわっ! なにっ!? な、何してっ!」
煙草を咥えた口の右端。ついばまれた感触に大きく叫んで、ポロリと落ちた蛍火が右手の甲を掠めた。あちいっ! と慌てる俺の姿に彼は満足気な笑みを湛えて、
「本当に想像していたままだ。木崎さん、君は僕の好みだよ。これからゆっくり落とそうと思っていたけれど、あの姿を見られたら、もう駆け引きはいいかなって」
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