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第12話

 床を焦がす前に拾い上げた煙草を持って唖然としている俺に彼は、 「じゃあ、明日からよろしく。あ、それと、毎日あの横断歩道を使うのなら、必ずあの部屋の窓を見上げて欲しいな。明日から君にだけ、朝の挨拶をしてあげるから」  ひらひらと手を振って水無月は喫煙室から出て行く。残された俺はしばらく呆けていたが、やがてのろのろと煙草をもみ消してその手で唇の端を触った。 (さっきのって、キス、だったんだよな? それに落とすってどういうこと?)  煙草の匂いを浄化しようとごうごうと鳴く空気清浄機の音の中、俺は今朝も目にしたあの光景を思い返していた。

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