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第140話
「そう言えば、俺、バタバタしていて今夜からの宿をとっていなかった」
「……よく言うよ。本当は僕の家に転がり込むつもりだろう?」
「ばれてた? だって、うちの会社は馨のところと違って、あんなに良いホテルに泊まれるほど宿泊費は出ないんだ」
「……うちだって出ないよ。あそこは僕が自費で泊まっていたんだ。おかげで夏のボーナス、吹き飛んだよ……」
恥ずかしそうに言う馨の肩に腕をかけて、ぐいっと顔を近づける。にやにや笑う俺に馨は耳まで真っ赤に染まると、「大河といると寒さなんか感じない」と呟いた。
「それは良かった。だって俺は馨の恋人兼専属湯たんぽだからな」
今度は首まで赤く染めた馨の肩を抱いて、俺達は冷たい風の吹く橋の上を意気揚々と駅へ向けてまた歩き始めた。
(了)
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