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第139話

 そして、横断歩道の真ん中で佐竹とすれ違った時、 「――昨夜はすまなかった……」  川から吹く風に消されそうな声に、俺はハッとその場に立ち止まって後ろを振り返った。佐竹の丸めた背中が人波に紛れて見えなくなる頃には歩行者信号の点滅が始まって、俺は慌てて横断歩道を渡った。  渡った先の橋の袂で馨が遅れた俺を待つように立ち止まって何かを見上げている。その横に立って俺も同じように顔を上げた。 「こんなによく見えたんだね」  そこには今朝まで俺達が情熱的に交わっていた部屋の窓があった。あの時、俺が何気なくあの窓を見上げなかったら、馨とこんな関係にはならなかったかもしれない。

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