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第2話

 水の流れる音で目が覚める。僕は荒縄で腕と胴体を縛られ、明るい部屋に転がされていた。部屋の中の僕の正面にはソファがあり、腰まであるブルーグレーの髪を低い位置で縛った、紺碧の目をした……服装は和装で濃紺の着物を着ている人物……いや、おそらく人ではないだろう……が座って冷たい眼差しで僕を見つめていた。部屋の中は不思議なことに川が流れ、植物が植っている部分があり、その反対側の壁には本棚があって様々な本が並べられていた。川の部分以外の床は普通のフローリングであり、しばらく気絶していたらしい僕の体はあちこちが痛い。 「ようやく目覚めたようだな」  低いがよく通る美声が話しかけてくる。その声は怜悧で明らかに僕が妊婦連続誘拐事件に関係していると思い込んでいるようだ。 「えっと……あの」 「相馬 觀月……か」  と僕の財布を漁りながら行った。 「貴様、妊婦ばかりを攫ってどんな呪術を行なう積りだ?」 「いえ、僕は、あの……」  こういう時にコミュニケーション能力が低い自分が憎らしい。  どうやらこの……見た目は二十代後半の冷たい目をした人ならざるものは、僕が妊婦を攫って、しかもそれを呪術に使用している犯人だと思っているらしい。 「じゅ、呪術とか誘拐だとか、僕はやっていません!攫われている女性を見たので警察に通報しようとしたら貴方が僕を……」 「普通の人間は誘拐される瞬間に気づけないものなのだよ、あれは呪の一種で人の意識を逸らして行われるからな」  道理で事件の捜査が進展しないわけだ。僕も車のナンバーや特徴を思い出そうとしてもうまく思い出せない、いわんや車の中にいた人物の特徴をもだ。 「なぜ貴様はその現場を見る事ができた?」 「あの、その、僕には若干ですが霊感があるのでそのせいかと……」 「ふん、若干、か……それにしても貴様、気配が妙だな」  気配が妙。それはきっと「あの日」の出来事のせいだろう。 「妙な気配のものが、誘拐現場に居た。これはどうしたものか」  冷たい瞳が笑う。僕の言って居ることを信じた様子はない。僕は僕でさっき女性を助けられなかったのを責められているような気持ちになる。僕は弱くて、無力だ。 「女、特に妊婦は呪術的に非常に強い意味合いを持つ。それを集めて一体何をしようというのだ?」  男は立ち上がり、僕に近づく。清涼な水の匂いが霧のように胸に染み渡る。 「知りません、僕は関係のないことです……僕は、その、四神様を探していて――」 「四神だと?」  男が僕の前髪を乱暴な手つきで掴み、顔を近づけてきた。透き通った紺碧の瞳は横幅の広い美しい縁取りに収まっている。通った鼻筋、薄く酷薄そうな唇。恐ろしい程の美しい顔が眼前に迫り、僕はパニックを起こし、半ば反射的に謝っていた。 「あの、その、すみません」  僕がいながら女性が連れ去られた、僕が、僕は何もできなかった……! 「その謝罪は妊婦の連れ去りを認めるということか?」 「いえ、それは違くって、その、すみません」  男に詰問されていると段々と精神が不安定になってくるのを感じた。まずい。 「ぼ、僕はその、誘拐とかには関係なくって、ただ四神様を探していて……」  四神、という単語に男は酷薄な笑みを浮かべて尋ねる。 「四神を探してどうする積りだ?」 「あ、あ、あああああああああああああ!」  突如叫び出した僕に男は驚いた様子だったが、さらに問いただしてくる。 「まさか、四神を封じるつもりか?妊婦を使って?」 「あ、あ、ぼくが殺しました、僕僕が。  僕が全部悪いいいいいいいいいいああああ、ごめんなさいごめんなさい弱くてごめんなさい」  視界がぐにゃりと歪む。「あの日」の僕に意識が移っていく。僕は「あの日」にも存在し続けている。 「それは認めるということだな?委細話してもらうぞ」 「悪いのは僕ですごめんなさい爺、婆、とっちゃ、かっちゃ、……ねえちゃ」  みんな僕の為に、僕を守ろうとしてくれたのに全員殺された、「僕」に。  しばらく僕はブツブツと「ごめんなさい」と繰り返す。  耐えかねたらしい男は僕の頬を平手打ちにした。すると次第に視界はクリアになり、今日に戻ってこれた。 「何を訳の分からないことを言っている?妊婦を攫った目的を話せ」  苛立った声が問いかける。僕の先程の妄言でどうやら彼は誤解をしたらしい。 「……いえ、すみません。僕、少し精神が不安定で……今言ったことは事件には関係ありません」  男の瞳に残虐な色が浮かぶ。瀑布のような激しい感情。 「……そう言って私が信じると思うか?」 「すみません、その、どうか信じてください……」  男が僕の髪を掴んだまま、僕の目を覗く。 「妙な目をしている……お前、妖力は弱いようだが人ではないな?」  その一言でショックを受ける。僕は人間ではない、人間では―― 「人間ではないのであれば容赦は無用だな、委細吐いてもらうぞ」  そう言って男は僕からズボンを下着ごと脱がせた。ひんやりとしたフローリングの感触を臀部に感じる。 「な、に……?」  男はスリッパを脱ぐと素足で僕の股間を踏んだ。 「ぁ……ぐっ」 「答えろ」 「ですから、僕は……っ」  股間に加えられる力が強くなっていく。 「痛っ……!や、やめてください」  男は冷笑を浮かべ僕の股間に加わる力を弱めるどころか一層強くしていく。僕の中心は踏み潰される恐ろしさに縮み上がってしまっている。怖い。しかしながら僕の精神は何故か安堵していくのを感じる。きっとずっとこうして罰せられるのを望んでいたのだろう。僕の罪に相応しい罰を。 「妊婦をどうした?人払いの呪は誰に教わった?」 「わ、わかりませ……」  目に涙が滲んでくる。分からない、本当にたまたまそこに居ただけなのだ。 「ふん……成る程な」  股間に加わっていた力が緩んだ。ようやく伝わったのかと思った瞬間、今度は足で僕の中心を扱き出した。 「罰を受けて安堵するということは罪の自覚があるのだな?ではもっと酷くしてやろう」 「や……やめ、……あっ」 「足で擦られて感じるとは、淫売め……!」  言われた通り、僕の中心は刺激を受けて固くなり始めている。足で擦られているという屈辱と罪を罰してもらえる期待で感じてしまう自分の浅ましさに嫌気がさし、同時に喜んでいる。 「あっ……、あっ、やっ……」 「嫌だと?足の裏からでもわかるほど勃起し先走りの汁を垂らして喜んでいる癖に」  先程から僕の中心は最高の硬度になりつつあり、さらに先走りでぐちゃぐちゃと音を立てている。男の足はもうすぐ達しそうになったところで袋の方を弄び始める。袋という弱い部分を踏まれる恐怖心と射精を焦らされている感覚でおかしくなりそうだった。 「あっ……おねが……、します、イか、せ……」  イかせてくれないなら自分で弄ろうと思ったが、強固に結ばれた縄の中でもがくと、縄が僕の腕に擦れて痛い。しかし何故かそれにすら感じてしまう。待ち望んだ罰。もっと酷くしてほしいという気持ちが心の奥底で湧き上がるのを感じる。それが僕の中心を一層固くさせ、先走りをどんどん出してしまう。汗が滲み、吐息は荒く激しくなる。 「被虐趣味の変態か。望み通りもっと酷くしてやろう」  被虐趣味ではない筈だけれど、この男のくれる罰は心地好い。もっと酷く、気が狂うほどの罰で僕の罪を忘れさせてほしい。  男は僕の中心から足を退けて、僕を縛る縄を掴むと一気にソファの上に僕を乗せた。成人男性にしては細い僕とはいえ、それを軽々とやってのけるなんて、やはりこの男は人間ではない。  ソファに仰向けにされ、後孔になんの躊躇いもなく指を入れられる。 「う、ぐ……痛っ」 「痛いのは好きだろう?」  彼の指はいつの間にか粘性のある水溶液を纏っていた。いつの間に?と考える猶予もなく中をめちゃくちゃにかき混ぜられる。内臓の壁を指で擦り上げられると何とも言えない違和感があった。気持ちが悪い。 「い、や……っ」  男の行動から彼が何をするつもりなのか予想した僕は全身に鳥肌が立つ。しかしそれとは裏腹にもっと酷い苦しみを期待して胸は高鳴り、僕の中心は天を仰いだままだ。今まで付き纏っている罪悪感を精算できる機会に喜びすら抱いてしまう。 「はは、未だ勃起しているとは、汚らわしい。これから何をされるかわかっているのだろう?」  男の言う通り、僕は穢れている。その事実を今まで誰も言ってくれなかったけれど、この男は、僕の罪を断罪してくれるんだろうか? 「あ……っ、はっ、い、……」  男は僕の後孔を蹂躙すると、解れたそこに男自身をあてがった。 「う、……ぐ、……ぁ」  みしり、と音がしそうなくらいの質量と体積のあるものが僕の中に押し入ってくる。内臓と男自身が擦れるたびに僕の口からは喘ぎ声とも、呻き声ともつかない声が漏れ出る。 「あ、あ、……!」  男が完全に僕の中に入り切ると、何かを探るような動きですぐに律動を始めた。 「あっう、はっ、や……っ」  男のカリの部分がある箇所を掠めた時、突然の射精感に襲われる。 「あっ、い、……」 「そうか、ここが善いか」  そういうと男は僕の中心を射精を堰き止めるように握りしめ、さっきの箇所を重点的に突いたりカリを引っ掛けて弄んできた。 「あっ、あっ!も、イかせ、て……」 「そうはいかんな……妊婦連れ去りについて洗いざらい吐け」 「な、にも知らな……っ」 「まだ言うか……もっと責められたいのか?」  男は器用に長い指を使って僕の根元を押さえたまま、残りの指で僕の先端を弄ぶ。 「ひゃ、あああああ」  後孔からの快楽も相まって、気が狂いそうになりながらも、もっと責められたいと望んでいた。もっと苦しく、もっと痛くしてほしい。 「もっとか?」  すると僕の喉笛を長い舌で舐めてきた。 「ここを噛むと苦しいぞ?」  その苦しみや痛みを想像しただけで、限界まで膨れていたと思っていた僕自身がさらに大きくなってしまう。 「そうか、それを望むか」 「……う、ぐ、……あ」  まるで獣に食われる草食獣のような状態になる。男の犬歯は長く、僕の喉笛は本当に噛みちぎられそうだ。 「あ、あ……っ、あ」  苦しくなるほど安堵する。いっそこのまま死ねたらいいとすら思う。でも僕は、「あの日」以来死ねない体になってしまった。  ぷつり、と男の犬歯が僕の喉笛を傷つけた瞬間、我に帰る。このままではまずい。 「あ!だ……め、き、ずは……」  時すでに遅く、僕の喉笛についた僅かな傷からは小指ほどの大きさの「触手」が飛び出していた。男はそれを見て口を離す。律動も止まった。 「……面妖な……」  これくらいの傷なら大丈夫だ、もし致命傷を受けていたら、一貫の終わりだ。 「僕、は……本当に妊婦さんの事件とは関係がないのです……信じてください……」 「……」  男は面食らったような顔をすると「わかった」といい、 「このままでは辛いであろう、今終わらせる……」  僕の中心に絡ませていた指をほどき、再度律動を始めた。ピンポイントで感じる箇所を突いてくる。僕はさっきからずっと責められっぱなしだったのであっという間に達した。 「だめっ、イっちゃう、あーっ!」  びゅーっと信じられないような量の精液が僕の尿道を通り過ぎていく感覚で失神しそうになる。 「……くっ」  男も同時に達したようだ。僕の最奥に熱い迸りを感じて、その感覚でまた僕の中心が固くなってしまう。  男は苦笑いしながら僕から男自身を引き抜き、僕の中心を扱き始めた。 「さんざん責めてしまったからな……もう一度達するといい」  先程とは異なる優しい手つきで僕を扱き始める。それくらいでは物足りない僕はついつい腰を動かしてしまう。 「気持ちいいのか?腰が動いているぞ」 「あっ、だ、って」  男はあやす様な手つきで僕を追い込む。 「あ、い、く」 「よいぞ」 「あっ、あーっ」  僕はあっけなく吐精した。二回目の吐精だったが、精液の濃さは変わらなかった。

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