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最終話
「……そんな」
「お前は生きるべきだ、觀月」
青龍様が苦しそうな顔で言った。
「……そんな、嫌です、どうか、お願いします……消えないんです。祖父を食い殺した時の、祖母を捻り潰した時の、父を叩き潰した時の、母と姉を犯した時の感覚が消えないんです。僕が全てやったこと……全て僕が……」
生々しい感覚は自らがやったものとして記憶されている。何度も何度も夢に見て、その度に感じるのだ。もうこれ以上、耐えられない。
「約束を違えて申し訳ない。然しお前を責め苛む罪悪感を少しでも減らすよう、私が力を尽くそう。だから、お願いだから生きてくれ、觀月」
「……ああああああああああああああっ」
絶望の宣告に僕の慟哭が響く。これからずっと先の未来まで、僕は僕が犯した罪から逃げられない。死すら遠く、安寧はない。ひたすら「あの日」の感覚が再現され続ける未来。今は涙が出るがこれもいつか枯れるのだろうという未来への絶望的な確信。
結局僕は「青龍様預かり」の身分となって過ごすこととなった。玄武様達が帰宅されると青龍様が泣いている僕を抱き寄せた。
「お前にたくさんの……美しいものを見せよう、楽しいことをしよう……私がいる、綜、凛そして咲もだ。お前の罪悪感は私が安堵へと変えよう。だから共に生きてくれ觀月」
「その選択しかないのですから……僕にはもう……」
四神様でダメなら打つ手などもうない、万策尽きているのだから、生きるしかない。「あの日」の感覚を背負いながら。
僕の涙を拭いながら、青龍様は僕を寝室に運ぶ。
「お前を……觀月を離したくない、これは私の願いだ。だから觀月が生きていられるよう、安寧を得られるよう、私は觀月に罰を与える。だからどうか私のそばにいてくれ」
「はい……」
青龍様がくれる甘い罰を糧に生きていくしかないのだ、僕は。
ベッドに横たえられ、服を脱がされる。青龍様も服を脱ぐと早速僕の首筋を舐め、乳首を甘く噛んだ。
「あっ……」
思わず喘ぎ声が漏れる。与えられている快楽と、この先の快楽への期待。
青龍様は僕の乳首への刺激を徐々に強くしていく。僕の乳首は膨れ、完全に屹立した。それでも青龍様は愛撫を強くしていく。
「あ……ぅ……」
「此処にピアスをつけるのもいいかも知れないな……綜に今度手配させよう」
乳首にピアスを開けられる痛みを想像して、下半身にどんどん血液が集まっていくのを感じる。
「痛みを想像してここを硬くさせるとは、被虐趣味の淫乱だな……」
青龍様は着ていた和服の帯がシワになるのも気にせず僕の両手を縛り上げると冷たく笑った。
「お前には似合いの格好だな」
そう言うと乳首への愛撫を再開した。乳首はもう腫れてきていていた痛痒い状態だ。そこに犬歯を突き立てられると激しい痛みが襲う。
「……っ、ぁ」
「もっと苦痛が欲しいのだろう?」
そして青龍様は例の粘液で僕の後孔を慣らしていく。中をかき混ぜるようにぐちゃりぐちゃりと混ぜ、淫猥な音が室内に響いた。僕が感じるポイントに長い指が達するとそこを重点的に攻め上げる。同時に反対側の手を筒状にして僕の中心を掴んだ。
「ほら、お前が女とするときどんなふうに腰を使うか見せてみろ」
言われるまでもなく、僕の腰はカクカクと動き、まるで青龍様の手を使って自慰をさせられているような気分になる。恥ずかしいけれど腰の動きがとまらない。
「あっ……はぁ……んん」
「そんなに喘いでいては女に笑われてしまうぞ?まあお前はもう女と致すことで満足する体ではないがな」
蔑むように言われ、余計に感じてしまう。確かに僕はもう普通のセックスでは……青龍様以外とのセックスでは満足のできる体ではない。後孔からの快楽も加わってしばらく腰を動かしていると射精欲が込み上げ、さらに激しく腰を動かしてしまう。
「もう達するか?すっかり後孔でも感じるようになってしまったな……」
「はぁっ、はぁっ、も、イきそうです……!」
「そのまま達するがいい……それともまた止められたいのか?」
せせら笑いながら青龍様が聞いてくる。
「やっ……も……イきたいです……!」
「ならば達するが良い。その様を見てやろう、さあ」
「あっあっいく、いく、いっちゃう、あああああっ」
びゅくびゅくと精液を放出するとしばし蕩然とした感覚に陥る、が。
「え……、や、イったばっかり……なの……だめっ」
そのまま僕の精液の滑りを借りて青龍様は僕の中心の先端を弄ぶ。
「まだまだ出せるだろう?さあ腰を振ってみよ」
「やぅ……あっ……」
イったばかりで敏感になっている先端を弄ばれ、快楽の限界値はとうに超えているため腰が震えて動かない。
「なんだ?もう終いか?仕方のない奴だな……」
言いながら青龍様は太い切先を僕の後孔に充てがう。そしてゆっくりと貫いてきた。
「あ、あ、あ、……またイ、くぅっ」
青龍様の中心が僕の中に入ってくるのに押し出されるような形でまた僕は達してしまった。
「まだまだ出せるではないか……!」
そうして律動を開始した。僕の感じる箇所を的確にぐりぐりと擦るやり方でまたしてもあっという間に僕を追い詰めてくる。さらに二回も射精した僕の中心を弄ぶのをやめてくれない。
「やっ、そこ、だめぇ……っ」
「そことは、どこだ?私はお前を善くしてやっているのだぞ?」
「お、ちんちん……っだめ、出ちゃう……!」
「出せば良いではないか、気持ち良かろう?」
「ちがっ……」
射精欲ではなく尿意を催してきた。気が狂いそうになるがおしっこを漏らすわけにはいかない。しかし青龍様は僕の先端の鈴口をぐりぐり、ぬるぬると攻めるのを一向にやめてくれない。
「ほら、ここを弄くり回すと中も締まるぞ」
「だめ……あの、その……ぅお、」
「うん?」
「おしっこ、出ちゃう……!」
「いよいよ雌犬のようだな」
言葉で、肉体で、どんどん攻められるほどどんどん感じてしまう。もっともっと苦痛が欲しくなってしまう。
「あっあっいや、だめ、おしっこ出ちゃう……出ちゃうー!」
僕はその叫び声と共に膨大な量の尿を漏らしていた。尿道を猛烈な勢いで快楽が襲う。同時に中を猛烈に締め付けていたらしく青龍様も達した。僕の尿は青龍様にもかかってしまった。青龍様の顔にまで達したそれを舐めながら、冷酷な笑みを浮かべた。
「ぅ……あ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「この青龍に小水を掛けるとは、雌犬め、罰が必要なようだな……」
青龍様は僕の首に手をかけて締め始めた。ものすごい怪力で首がへし折れそうになる恐怖が僕を襲う。
「う……ぐ……ぁ」
一瞬手を緩めて僕が息を吐いて吸い込もうとしたタイミングでまた首を絞める。息を吐いていた僕の肺の中には殆ど空気が残っておらず、先ほどよりもさらに苦しくなった。
「このまま窒息するか?それとも首をへし折るか?どちらにしてもお前は死ねぬのだろう?」
苦痛が全て安堵になっていくのを感じる。罰を与えられることによって自らの罪が減衰していくような錯覚。
「ん……ぐぅ……ぅ」
「また中が締まってきているぞ?そんなに良いのか?」
「……うぅ……っ」
「ではこのまま窒息にしよう」
抽挿を繰り返しながら青龍様が微笑む。段々と激しくなる突きと酸欠状態でどんどんと意識が遠ざかりそうになる。
「さあ……首を絞めてやるから……罰を与えてやるから……安らかに眠るといい」
「……ゔ……ぁ……っ!」
最奥を力強く青龍様の中心で突かれた時、僕が弾け、同時に青龍様も達した。中に温かい青龍様の精液の感触を感じた僕は安堵して気絶するように眠りに落ちた。
「とっちゃ、まーた怪我して帰ってきたんだべ」
父親は苦笑いする。また依頼で怪我をして帰ってきたのだ。父親はすぐ無理をするのと生来の粗忽者だったのでよく怪我をして帰ってきていた。
「危なっかしいなあ、無理すんでね」
祖母が注意する。本気で父親を心配しているようだ。
そこへ祖父がやってきた。
「向かいから林檎きてたからみんなで食うべさ」
姉も学校から帰ってきて家族みんなで林檎を食べた。
「かっちゃ、もっと林檎剥いて」
僕がいうと姉は、
「おめえが剥け」
と言ってくる。
「だったら姉ちゃん剥けよ、姉ちゃんの方が量食ってんべ」
「はいはい二人とも今剥いてあげるから」
母親が剥いた林檎を持ってきてくれる……
目を覚ますと、僕は服を着ており、青龍様が隣で僕を見ていた。時刻は朝方のようだ。
「おはよう……ございます……」
「よく眠れていたようだな、悪夢は見たか?」
「いえ、見ませんでした」
何の夢を見たのか記憶にないが、懐かしさで胸がギュッとなる感覚だけが残る。そして青龍様の気配があることの安心感。たっぷりと寝られた僕は体調も良い。昨日縛られていた手首が少し痛いくらいだ。
「もう少しゆっくりしたら朝餉を取ろう」
「はい、ありがとうございます」
再び微睡が訪れる。青龍様は昨晩つきっきりで僕のそばにいてくれたのだろう。おかげで僕は安心して眠ることができた。
青龍様は、本当は僕のことを……、でも僕が正気を保って生きていくためにはどうしても罰が必要で。だから青龍様も本来こんなやり方を望んではいないだろうけれどこう言う風にしか僕らは繋がれないのだ。でも青龍様と出会ったのは罪を背負った僕だから、どうしようもない。
三日後、蜘蛛の店に頼んだストールが届いた。それを青龍様に差し上げるとあまり表情には出さなかったが喜んでいる様子だった。
凛、咲はとても喜んでいる様子で「青龍様よくお似合いです」とはしゃいでいた。確かにブルーグレーの髪と紺碧の瞳をもつ青龍様に誂えたような紺色のストールに仕上がっていた。
しかし同時に僕は綜の不在を寂しく感じていた。綜が教えてくれた店で織ったストールを見せたかった。青龍様はそのうち霊力が溜まれば綜が戻ってくると言っていたがいつになるのだろう。あの快活でおしゃべりな綜が早く戻ってこれるといいな、と思う。
同日、僕は住んでいた高田馬場のアパートを引き払うことにした。これからは青龍様の元、名目上は凛達と同じ神使として青龍様の家に住むことになったからだ。元々少なかった荷物だったのですぐに引越し作業は終わった。僕の部屋は特になく、青龍様の書斎も使って良いとのことだったので、そこへ実家から持ってきた僅かな書物などを置かせてもらった。こうして僕と青龍様達の生活は始まった。
僕と青龍様はお互いを思いながら、これからも僕の正気を保つために罰を与え、罰を与えられるという関係でしか生きられないのだろう。でもそれで良いのだ。本当の幸せを得るには僕は罪深すぎる。遠い遠い未来、罰を与えられ続け、もしその先に僕が僕の罪を贖えたと思った時、僕は青龍様と本当の意味で結ばれるのだろう。
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