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第1話 ともだち
「こんな花、家には持ち込まないで!」
図工の時間に作った花瓶に挿した花を見ると、お母さんは怒ってそれをゴミ箱に捨てた。
さっき、食卓テーブルの上の雑誌をまとめると、学校帰りに摘んできた赤い花を花瓶に挿して水を入れた。赤い絨毯の様に、綺麗に並んで咲くその花は、線香花火が逆さになったように赤く燃える花びらをつけていた。9月の怠い暑さの中で、急にポッと出てきた花々。
いつもなら花を摘んだりはしない。でも、昨日図工の時間に紙粘土で花瓶を作って、そこに入れる花を買うという友達に、僕は買うお金もないし、誰のモノでもない花なら摘んでもいいと思ってしまった。
「コレ、堤防に咲いてたんだ。綺麗だと思って.....。紙粘土で花瓶を作ったから.....」
「ジュン、この花はねぇ、彼岸花っていって縁起が悪いの!お墓に咲いてるの見た事ない?こんなの誰も家の花瓶に活けようなんて思わないから!あと、その花瓶も、この部屋には合わないでしょ?自分の部屋の引き出しにでも入れておきなさい。」
それだけを云って、お母さんはキレイな巻き毛を指で整えると玄関に向かう。
「行ってらっしゃい.....」
夕方5時になると、お母さんはキレイな服を着てお化粧をして、いい匂いの何かを首筋に擦りつけると仕事場へ向かう。そのいい匂いを嗅ぐと同時に、ひとり残される僕。
僕の記憶の中にお父さんはいない。
前に、何度か見かけた男の人がお父さんなのかと訊いてみた事がある。
お母さんはタバコの煙を天井に向けて吐き出すと、大きな声で笑って云った。
「バッカねぇ......。ジュンのお父さんは死んだの。もういないんだから、変な事訊いたら嫌だよ?!あの人達はお母さんの友達。」
友達って、.......裸で布団に入るもの?
僕を見るとあの男の人は変な顔をした。だから、出来るだけ土曜日とか日曜日は外にいた。
学校の友達はゲームを持って行かないと遊んでくれないし、たまに遊びに行って出されたお菓子を僕が一人で食べてしまうから怒る。大抵3回目は遊びに行くのを断られた。
折角綺麗な花を摘んできたのに.......
縁起が悪いって何だろう.......
ゴミ箱に捨てられた花をじっと見ながら、僕は流し台の下の扉を開けてカップ麺を取り出した。「デカ盛り」と書かれた焼きそばのビニールを剥すと、いつもの様にポットのお湯を注ぐ。
待っている間に花瓶の中の水を捨てると、それを燃えないゴミ用の袋に投げ入れた。
袋の中で、一瞬カシャンと音をたてると、粉々になった花瓶。白い雲と青い空の模様を描いたんだ。あの赤い彼岸花は、まるでお日様の様で綺麗だったのにな.......
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