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第42話 意外な友達
電車に揺られて学校に着くころには、頬の涙の痕も乾いてしまい気持ちも落ち着いた。
教室に入って自分の席に座るが、先に来ていた隣の席の柏木が「おっ!」と声をあげる。
「どうしたの、その荷物。旅に出るのか?」
「はあ?まさか.......。」
説明のしようがなくて黙っていると、「なんだよ、家出でもしてきた?」としつこく訊かれ、遂に「そうだよ」と云ってしまう。
家出には違いない。僕の家じゃないけれど、帰る家はあそこしかなかったんだから。
「なんだよー、親と喧嘩でもした?大原っていい子そうなのに。」
柏木のいうところの『いい子』の定義は分からないが、やっぱり説明が面倒だ。
「柏木君が住んでるのはアパート?確か群馬出身って云ってたよね。」
ひとり暮らしなら泊めてくれないだろうかと思って訊いてみるが、「オレ、親戚の家に下宿してるんだよ。」と云われ、がっかりした。
ひとり暮らしの同級生って他にいたかなー。ぐるりと教室に居る生徒の顔を見てみたが、元々付き合いの悪い僕には仲のいい同級生がいなかった。
授業が始まる前にロッカーへ荷物を入れたが、全部は入りきらなくて。椅子の下に仕方なく置く。それが足に当たる度、小金井さんの顔を思い出してしまうと気分が落ち込んだ。
僕がいなくなったのを知ってどう思うだろうか。心配するかな?それとも、せいせいするとか。
午前の授業が終わって昼休み。今日の昼食は売店にある焼きそばでいいや。と思って急いでいくが、生憎売り切れてしまい仕方なくメロンパンを買った。
教室で食べていると、「大原くーん、それだけで足りるの?」と背後から声が掛かり振り向いた。そこに居たのは”夏野美冬”だった。
「別に、足りるけど。」と、顔を背けて答えると、彼女は「ふーん、だからそんなにちっこいのよー。」と僕の隣に座ると云って来る。
まったく、毎回彼女の言い方にはトゲがあって、なんとなく避けていたのにすぐにこうして寄って来るんだ。
「僕が小さいのは遺伝なんで。DNAは変えられません。」
腹が立ったのでそう云うと、夏野さんは「はははっ、おもしろいね~」と口を隠しながら云う。じろりと横目で見ると、彼女も僕を見た。
「ねえ、その荷物どうしたの?教材でこんなになるわけないよねぇ。」
足元にあるバッグを見ると訊かれて、答えに困る。柏木くんには家出と云ってしまったが、彼女には云いたくないし。
「関係ないでしょ?僕なんかに構わずに友達のとこ行けば?」
「友達ねぇ、いないんだよね。みんな最初は寄って来るんだけど、その内離れて行っちゃうの。どうしてだと思う?」
珍しく夏野さんが弱気な事をいう。彼女には取り巻きがいた様な気がするけれど、今は一人なんだと思った。
「その性格じゃない?.....気に障る事をハッキリ云っちゃうからさ。」
「あー、やっぱり?でもさ、性格って変えられないじゃん。」
「まあ、そうだけど。」
「大原君なら友達になれると思ったのに。」
一歩的に云われてちょっと驚いてしまう。僕の中で、夏野さんと友達になるという選択はないんだけど......。でも、まあ、ムカつく女だけど、はっきりと云いたい事を云う性格は嫌いじゃないかな。多分僕もそうだし。
「.....夏野さんってひとり暮らし?」
「え?そうだけど、何?」
「僕さ、家出してきたんだけど、暫く泊めてくれない?友達なら。」
友達という言葉を使うのは卑怯かもしれないけど、とにかく寝る場所は必要だし。
「いいよ、私、大原君に興味あったし、泊めてあげる。」
意外な返事をもらって驚くが、でも少し安心した。今日はなんとかなりそうだ。
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